はじめに
大晦日になると、神社で振る舞われる甘酒。こっくりとしたお米の自然な甘さは、寒空の下で冷えた体をゆっくり温めてくれます。
その甘酒の需要が今、急拡大していることをご存知でしょうか。ある調査では、市場規模は5年間で4倍弱まで成長したという結果が出ています。
いったい甘酒のどういう要素がどんな層に受け、ここまで需要が拡大しているのでしょうか。
市場規模も購入金額も右肩上がり
市場調査会社のインテージによると、2012年11月からの1年間で55億円だった甘酒市場は、2016年11月からの1年間では217億円にまで急伸(下図)。5年前の約4倍の規模まで成長しました。
市場の拡大に比例して、消費者の年間平均購入額も上昇。2017年は前年比で187%の伸び率を記録しました。これは、主要な食品・飲料・日用雑貨の中で最も大きな増加率となります。2016年も同182%増でトップの増加率だったので、2年連続で伸び率がナンバーワンとなった格好です。
“飲む点滴”がブームを牽引
甘酒は原料によって大きく2つに分類されます。米麹を発酵させて作った麹甘酒と、酒粕を水で溶いて砂糖で甘みを出した酒粕甘酒です。
ブームを牽引するのは麹甘酒です。市販されている甘酒の5割以上を占めます。残りの3割弱は麹と酒粕がブレンドされた甘酒で、酒粕甘酒は1割未満にとどまります。
ブドウ糖、アミノ酸、ビタミンB群などが豊富に含まれ、栄養価が高く、“飲む点滴”とも称される麹甘酒。ノンアルコールのため妊産婦や子供も安心して飲めることや、砂糖を一切使用していないことも購入層の拡大につながっています。
インテージが10~50代の男女を対象に実施した「甘酒に関する意識調査」によると、甘酒を「週に1日以上飲んでいる」と回答した人は全体の4.1%。30代以上の女性では、年代が上がるにつれてその割合が増加します。また、「週に1日以上飲んでいる」と回答した人の約2割が「疲労回復効果」や「美肌効果」を期待して飲んでいることがわかりました。
割高な価格設定も徐々に浸透
「甘酒がブームになった当初、ある発酵食品と比べられることが多かった」と話すのは、「麹だけでつくったあまさけ」を販売する八海山・広報担当の浜崎こずえさんです。
「当時、よく比較対象にされていたのが、健康や美容に気遣う人が食べる発酵食品の代表格、ヨーグルトです」
ただ、ヨーグルトに比べると、甘酒の価格設定は少し高めです。「『麹だけつくったあまさけ』は118グラムで190円(税抜き)。決して安いとはいえない商品だと思っています」と浜崎さん。それでも市場は今も拡大し続けており、「適正価格として世の中に浸透してきたのではないでしょうか」と浜崎さんは話します。
生産能力倍増で主力商品に
発売した2009年当時は、酒蔵の一角で作っていましたが、急増する需要に生産が追いつかず、設備投資を繰り返してきました。独立した酒蔵を設けた2010年から2016年までの6年間で、売上高は10倍に成長しました。
今後の需要拡大も見込んで、2017年7月には設備投資に30億円を投入。生産量は今までの倍になり、供給体制が強化されました。同年からスーパーやコンビニにも販路を拡大し、工場はフル操業となっています。
社会の高齢化が進むほど健康意識は高くなり、甘酒の需要も一段と高まりそうです。浜崎さんは「甘酒を会社の主力商品として位置づけていきたい」と意気込みます。
今やコンビニやスーパーで見ないことはない甘酒。味噌や醤油などの製造業者が新規参入し、陳列されている甘酒商品も多様化しています。ヨーグルトのように“スタンダードな健康維持食品”として定着する日も近いのかもしれません。
(文:編集部 土屋舞)