はじめに

「他の追随を許さないところまで一気に走り抜けていく。『いきなり!ステーキ』のブランドを高めたいと思っています」。2月26日に開かれたペッパーフードサービスの2017年度決算説明会で、一瀬邦夫社長は競合の動きを意識しながら、こう発言しました。

手軽に食べられる“立ち食い方式”や“量り売り”で、ステーキの新しい市場を切り開いた「いきなり!ステーキ」。 グループ全体の本業の儲けを示す営業利益は、2017年度に前期比2.4倍と急拡大しました。

同社の好調ぶりにあやかろうと、類似業態を出店する競合他社が出てくるほど。いきなり!ステーキを2013年に出店し始めてから、わずか4年で急成長を遂げたペッパーフードサービスの勢いは、どこまで続くのでしょうか。


「赤字店舗は1つもない」

2月14日に発表した同社の2017年12月期業績は、売上高が前期比62.2%増の362億円、営業利益は同139.8%増の22億円と、大幅な増収増益になりました。ペッパーランチ事業をはじめとした、4つの事業すべてで業績が拡大しました。

中でも飛躍的な伸びを見せたのが、いきなり!ステーキ事業です。

2017年に73店舗が純増(出店90、退店17)となり、店舗網は188店まで広がりました。これに伴い、事業別の売上高も同91.5%増加。「1店も赤字がない」(一瀬社長)好調ぶりで、同事業利益が同3倍増の25億円と急拡大したのです。

ロードサイド店で売れるステーキ

いきなり!ステーキ事業が2017年に破竹の勢いで成長を遂げた一因は、同年5月から出店を始めたロードサイド店舗の好調な売り上げにあります。

ロードサイド店に力を入れるようになったのは、2016年3月に出店した九州自動車道路・宮原サービスエリアの店舗が「強烈な売り上げ」(一瀬社長)を記録したことがきっかけでした。

加えて、国道など幹線道路沿いにある郊外のショッピングセンターに出した店舗の売れ行きが好調だったことも、ロードサイド店舗の出店を加速させる要因になりました。比較的客単価の低いフードコートにおいて、1人2,000円するステーキが多くの人に受け入れられたことに手ごたえを感じたといいます。

ショッピングモールのフードコートにオープンした「いきなり!ステーキ」

ロードサイド店の1店当たりの月次平均売上高は2,350万円。「家賃率が極端に少ないため、利益率が高くなることが特徴」だと、一瀬社長は話します。

肉の切り方やマイル施策も後押し

急成長の秘訣は出店戦略だけではありません。ステーキをいかにおいしく食べてもらうか、という工夫も怠りません。

1枚300グラムのリブステーキを大きな塊からカットすると、塊の断面が大きいため、どうしても薄くなってしまいます。その薄さに客は「とても失望します」(一瀬社長)。

レアで食べることを推奨する同社では、薄いステーキはすぐに火が通ってしまい、おいしくないといいます。300グラムを要望する客には、ぶ厚めにカットした600グラムの塊を半分に切り、厚みを出して提供するようにしました。すると、これがとても好評だったそうです。

オーダーした肉の量がそのまま「マイル」になり、貯まったマイルに応じて割引や特典が受けられる「肉マイレージ」カードやアプリも、好調な業績をさらに後押しします。現在の発行枚数は430万枚。想定を上回る反響に「こんなにうまくいくとは思わなかった」と、一瀬社長は驚きを口にします。

いきなり!ステーキの勢いに隠れがちですが、ペッパーランチ事業も好調を維持しています。既存店売上高は62ヵ月連続で前年同月を超えています。

62ヵ月前は1店舗当たり450万円だった月次平均売上高が、現在は700万円を上回っているといいます。800円だった客単価は1,000円になり、25%伸びました。2018年1月には63ヵ月連続増を達成し、現在も記録を更新し続けているのです。

やっぱりライバルが出現

2018年度の売上高は前期比73.7%増の629億を目指します。そのうち536億円(同98.7%増)は、いきなり!ステーキ事業が引っ張っていく計画です。

そのため、新規出店をさらに加速。今年中に国内で新たに200店舗の出店をもくろみます。昨年の新規出店の実績は90店。その倍以上を目指すことになります。郊外の既存店舗の好調ぶりを受けて、「私の中で、これは達成するであろうというメドが立っています」と一瀬社長は語ります。

出店スピードを加速させるのには理由があります。1月15日に「ステーキのあさくま」が新業態として、いきなり!ステーキと同様の量り売りスタイルを取り入れた「やっぱりあさくま」をオープンさせたのです。

「同じことをしているのだから、これは絶対繁盛する」(一瀬社長)。社長自らライバル店に足を運び、直接先方の社長に電話で抗議したといいます。

「お肉を低価格で食べさせるところは、みんな競合店」(同)としたうえで、他社では追いつけない「この出店スピードこそが、競合対策そのものだ」と話します。

2017年2月にアメリカに初出店

立ちはだかる課題は、競合の出現だけではありません。進出して1年が経過した海外事業は、まだ軌道に乗ったとは言いがたく、誇れるような業績ではないといいます。2018年は、ニューヨークで9出店を計画。1年かけて米国と日本の食文化の違いが明確にわかってきたため、「ここからだと思います」と一瀬社長は意気込みます。

国内でライバルが登場する一方、海外進出はまだ道半ば。今が業績のピークにならないよう、ここからどれだけ成長できるのか。ペッパーフードサービスの真価が問われる局面に突入したようです。

(文:編集部 土屋舞)

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