はじめに

貧困家庭への理解が進まないのはなぜか?

――調査対象のプロフィールは、半数以上がひとり親家庭です。これらの家庭の年収は平均245.7万円。シングルマザーが多く、彼女らは就労率約80%ですが、正規雇用は2割程度。パート・アルバイトが多いですね。

シングルマザーは就職が相変わらず厳しいです。大卒で勤めた経験も能力もある人でも「お子さんいる?祖父母と一緒に暮らしていない?じゃあ正社員は無理です」となる。養育費の請求は親権を得るのと引き換えに離婚時に断念した。仕方ないからパートに出る。でも、パートゆえ自転車操業でダブル、トリプルワークをするしかない。必然的に子どもに関わってあげられる時間が少なくなり、子どもは低学力に陥るというパターンです。

他の先進国では、養育費の取り立ては国が(国の責任として)母親に代わって実行しています。行方不明なら探し、給料から天引きし、不払いは収監する。 養育費のことを決めずに、離婚できないようにもなっています。要するに「子どもの幸せを確保できるまでは離婚を認めない」ということが、国の法律にも組み込まれている。その点、日本は教育格差への認識にしてもそうですが、総じて"子どもの人権意識"が低いと感じます。

――確かに、貧困や貧困ゆえに子どもが低学力になることに対しても、世間は冷淡な気がします。子どもの人権など以前に「自己責任」で片付ける人がネット上にもあふれています。

今、お話ししたような「(貧困に転落する)背景を知らないから」ということが、まずあるからではないでしょうか。そして、なぜ背景を知らない・想像できないのかというと、「階層の断絶が既に積み重なっているから」ではないかと思います。

子どもの貧困が問題になり、具体的に数字として出てきたのは、2009年頃です。でも、実はもう、そのずっと前から断絶はかなり進んでいて、上の階層の人は下の人を見たこともない、上の人の考え方しか知らない状況に既になっている。

だから、ピンとこないんですね。CSR活動をしているような意識の高い企業の方々に話しても、日本企業の場合「本当にそんな人がいるんですか?」「自分の周りの友達や子どもの同級生を見てもそんな家庭はない」とよく言われます。

実際には、学習会の学生スタッフを見て「大学生って本当にいるんだ!」と言う子がいるのが、今の日本です。自分の親も大学に行っていないし、親戚にもいない。だから、大学生を見たことがない。大学なんていうのは特別な人が行くところで自分とは全く関係ないと思っている。

――大学生を見たことがないとは、いつの時代のことかと思います。

はい。一方で、良い会社の役員クラスの人たちは、皆ほとんど、良い大学を出て良い教育を受けています。その時点で下の階層の人たちと断絶されているので、「大学生を見たことがない」という現状や、そうなる理由がにわかには信じられない。それで、「よくわからないから、それなら海外の途上国に協力したほうがいいんじゃないか」という経営判断になってしまうということがよくあります。

他の先進国の場合、基本的に「教育格差があることが、そもそもおかしい」と考える比率の方が高い。しかし、日本では所得の高い人ほど、「格差があってもしょうがない」と考える傾向が強い。「うちはお金があるけれども、それだけ努力をして、勉強もして、投資もしているから」という意識です。

自助努力ではどうにもならない部分があるのに、「努力してないおたくが悪い」と言われても自暴自棄になるしかありません。(後編に続く)

取材協力

渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)

特定非営利活動法人キッズドア 理事長。千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。その後、家族で英国に移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。2007年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009年内閣府の認証を受け、特定非営利活動法人キッズドアを設立。著書に「子供の貧困 未来へつなぐためにできること」(水曜社発行)

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