はじめに
トップクラスの地方銀行がタッグを組む、異例の展開です。時価総額ベースで、5,132億円と地銀1位の横浜銀行と、4,556億円と同3位の千葉銀行が7月10日、業務提携をすることを発表しました。
頭取同士が飲み屋でサシ飲みをして始まったという、この“縁組”。両行にはどんな思惑があるのでしょうか。そして、この提携は利用客にはどんな影響がありそうなのでしょうか。発表当日に行われた会見の様子と業界関係者の見解から探ります。
業界トップでも将来に危機感
「少子高齢化、中小企業の高齢者不足、企業資金の余剰、国内の成長力に陰りが出ており、銀行が活躍できるフィールドは減っている」。この日の会見で、千葉銀の佐久間英利頭取と、横浜銀の大矢恭好頭取は、そろって地方銀行をめぐる環境の厳しさを口にしました。
両行ともに国内トップクラスの地銀です。横浜銀は個人顧客数約500万人、融資先は約5万先。千葉銀は個人顧客数訳430万人、融資先は4.5万先。神奈川、千葉両県は人口減少や少子高齢化がそれほど深刻とはいえず、企業も多く立地するエリアです。
とはいえ、日本銀行の超低金利政策は長期化し、預貸の金利差による収益は見込めなくなりました。金融庁が掲げる「顧客本位の業務運営」を守るため、手数料の高い投資信託などが売りにくくなった一方、デジタル化の進展により、異業種から銀行業、金融業への参入も相次ぎます。
これまでも地銀の業務連携はありましたが、体力の弱い銀行同士のコストカットのための連携や、体力のある銀行がそうでない銀行を飲み込む形でした。今回のように基盤のしっかりした地銀同士が連携することに、関係者からは驚きの声が上がります。
効果は5年で数百億円?
具体的にどんな連携が行われるのでしょうか。大きな柱として想定されているのが、ビジネスマッチングです。
地銀の主な顧客は大企業ではなく、地元の中堅・中小企業。東京湾に面する工業地帯を抱え、東京アクアラインで結ばれる両県には地理的な結びつきがあり、企業に取引先や提携先を紹介しやすくなります。
また、中小企業では後継者不足が課題ですが、「地元の企業には売却したくない」という経営者も少なくありません。M&Aや事業継承の相手を探すのにも、顧客地盤が倍になるというのは大きなメリットです。
海外支店の相互活用も始めます。横浜銀は香港などに5ヵ所、千葉銀はニューヨークなどの3ヵ所の海外拠点を持っていますが、世界各地に拠点を持つメガバンクに比べれば手薄です。お互いの支店を使えるようにすることで、企業の海外進出を支援するといいます。
個人向けでは、すでにお互いのATMを相互利用できるサービスが始まっています。また、相続関連業務や顧客データを使ったマーケティングなど、それぞれが得意とする分野のノウハウを共有し、サービスを充実させていく方針です。将来的には、東京都内で共同の支店を展開することも検討します。
このように顧客の利便性を高めることで、今後数年間で数百億円の増収を目指すといいます。