はじめに
今回は、遺産分割後に、親名義の不動産が見つかった男性のケースをご紹介します。トラブルを防ぐためにはどのような対策がとれるのでしょうか。
遺産に不動産があり、分配でもめてきょうだい不仲に
佐藤ムツオさん(65歳)は、弟、妹の三人です。父親は15年前に亡くなり、母親も10年前に亡くなりました。母親が亡くなった際、遺言書がなかったため、ムツオさん、弟、妹の三人で母親の財産を分ける話し合い(遺産分割協議)を行うことになりました。
母親の財産は、自宅と預貯金のみです。自宅は4,000万円、預貯金は2,000万円の合計6,000万円でした。平等に分けるとすれば一人2,000万円です。しかし、ムツオさんが母親と一緒に暮らしていた自宅は、ムツオさんが単独で引き継ぎたいと考えていました。
そうすると、自宅4,000万円をムツオさんが相続することになります。残りの預貯金を弟、妹で均等に分けたとしても一人1,000万円となり、平等な分け方にはなりません。これに対し、弟と妹は、財産は平等に分けることを希望しました。
この当時、相続税のかかる財産額ではなかったため、税金の心配はしなくてもよかったのは幸いでしたが、分け方が不平等になるのは今と同じです。
最終的には、ムツオさんが不動産を引き継ぐことで決まりました。その代わり、代償金として弟、妹に1,000万円を支払うという結果になりました。
不動産や預貯金の名義変更をするには、その内容を遺産分割協議書として作成する必要があります。父が亡くなった際、母へ名義変更をする手続きを手伝った経験から、今回はムツオさんが遺産分割協議書(話し合いの結果、財産の分け方を書き記した書面)を作成しました。そして、なんとか手続きを完了することができました。
この遺産分割協議で、家族同士の仲は険悪なものになり、お互いの付き合いはなくなってしまいました。
ある日家族の知らない母名義の不動産の存在が発覚
そんな母親の相続が亡くなってから10年後です。ムツオさんに市役所から手紙が届きました。
母親名義の山林があり、測量の協力をしてほしいとの内容でした。市役所に連絡をしてみると、母親名義の山林があることが分かりました。そして、この山林を開発することになり、近い将来に買い取らせてほしいとのこと。
この山林の存在は、相続人であるムツオさん、弟、妹の誰もが知らない土地でした。なぜ知らなかったのかというと、山林の土地は固定資産税が課税されていなかったからです。
毎年1月1日に不動産を所有している者には、固定資産税の納税通知書が届きます。しかし、評価額が低い場合などは、この通知書が送られてこないこともあるのです。
ムツオさんは困りました。
母親名義の不動産を買い取ってもらうためには、まずは相続による名義変更をしなければいけません。その後、所有者となった名義人(複数の場合には全員)の承諾や実印、印鑑登録証明書などが必要になるのです。しかし、10年前に母親の相続で家族の仲が悪くなり、連絡をとることすらできない状態です。
ムツオさんは、自分で対応するのは難しいと考え専門家に相談しました。そうすると、10年前の遺産分割協議書と印鑑登録証明書があれば名義の変更が可能かもしれないとのことでした。ただし、遺産分割協議書の内容によるので確認したいと言われました。