はじめに

11月9日に約26年ぶりとなる2万3,000円台を付けた日経平均株価。その後も短い調整を挟みつつ高値圏を維持しており、1ヵ月後の現在も2万2,000円台で推移しています。

この日経平均と意外な相関性を持つものがありました。実は、コーヒーの消費量は昨年まで4年連続で過去最高を記録。アベノミクス相場以降の株価と同じように、上昇基調をたどっているのです。

なぜ株価が上がると、コーヒーの消費も伸びるのか。あるいは、その逆の構造になっているのか。両者の動きが連動する理由はどこにあるのでしょうか。


景気が良くなるとコーヒー飲みが増加

下図は、全日本コーヒー協会がまとめた「コーヒーの消費と日経平均株価」のグラフです。コーヒーの消費量、日経平均ともに、2011年に直近の底をつけた後、2016年まで右肩上がりの状況となっています。

「日本経済が上向きになると、コーヒーの消費が伸びるのではないか」。以前からそう感じていた同協会の西野豊秀専務理事が、仮説に基づいて実態を調べてみました。すると、日経平均の年間平均値とコーヒーの年間消費量が同様の動きをしていることがわかりました。この相関性に、同協会の役員も驚いたといいます。

ニッセイアセットマネジメントの吉野貴晶・投資工学開発センター長は、コーヒーは代表的な嗜好品であるとしたうえで、「景気が良くなり、お金に余裕があれば、コーヒーを飲む人が増えると考えられるため、コーヒー消費と景気に連動する関係が見られると考えられる」と分析します。

日経平均に呼応するように上昇したコーヒーの消費量は、昨年まで4年連続で過去最高を記録。今年も1~9月の段階で前年比0.7%増となっているため、同協会としてはこのまま5年連続で過去最高の消費量を記録するのではないか、と期待しています。

ただ、「10月の消費の落ち込みが心配だ」と西野さんは話します。どういうことなのでしょうか。

選挙があるとコーヒー消費は伸び悩む

その理由は、10月に投開票が行われた第48回衆議院議員総選挙にありました。実は、選挙があるとコーヒーの消費が伸び悩む、という経験則があるのです。「記録を更新できるか、悩ましい結果になるかもしれない」と、西野さんは漏らします。

なぜ、選挙があるとコーヒーの消費が伸び悩むのでしょうか。それには公職選挙法が関係しているといいます。

この法律は原則として、選挙運動に関する飲食物の提供を禁止しています。「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」は例外として認められていますが、コーヒーについては明示されていません。公職選挙法が成立した1950年当時、コーヒーは物品税が課せられる高級ぜいたく品だったためです。

GVA法律事務所の渡邉寛人弁護士は、「現在では湯茶にコーヒーを含む解釈もできると思いますが、慣例的にコーヒーは認められていないという認識が引き継がれているのではないでしょうか」と指摘します。西野さんは、こうした状況が選挙時のコーヒーの消費を鈍化させていると話します。

消費量の拡大を後押しするレギュラー

選挙によって一時的に消費が落ち込むかもしれない一方で、実際に飲まれているコーヒーの種類が変わってきたことが消費量の拡大を後押ししている側面もあります。景気が上向くにつれ、インスタントコーヒーよりも1杯当たりの豆の消費量が多く、風味も豊かなレギュラーコーヒーが選ばれているようなのです。

全日本コーヒー協会の調査によると、1人当たりのコーヒーの週間平均飲用杯数は11.09杯。そのうち、レギュラーコーヒーは3.89杯と、7年前に比べて0.62杯増えています。一方、インスタントコーヒーは3.95杯と、7年前に比べて0.74杯も減少しています。

レギュラーコーヒーだと、1杯当たりの単価も上がります。「レギュラーコーヒーで使用するコーヒー豆であるアラビカ種は、インスタントコーヒーで使用するロブスタ種よりも価格が1.6~2倍近く高いのです」(西野さん)。

日経平均は足元も2万2,000円台をキープしており、年間平均が2016年を上回ることは必至。そうした中で、衆議院選挙という“逆風”をものともせず、コーヒー消費量が5年連続で過去最高を更新するのか。もし今年も更新することになれば、コーヒー消費量は年末の日経平均の水準を占う先行指標と位置づけられるかもしれません。

(文:編集部 土屋舞)

この記事の感想を教えてください。