はじめに

年末年始といえば、有名アーティストのコンサートが数多く開催される時期。お目当てのチケットを手に入れられなかった人が、行けなくなった人や不要になった人からネット上などでチケットを譲ってもらう光景は、風物詩となった感もあります。

ただ、今年はいつもと少し様子が違います。原因は、国内最大のチケット取引サイト「チケットキャンプ(チケキャン)」のサービス停止です。そして、この事態がフリマアプリの「メルカリ」に、思わぬ余波を広げています。

ネット上でのチケット取引に何が起きているのでしょうか。意図せぬルール違反に陥ってしまわないために、気を付けておくべきことがあります。


2年で7倍以上の規模に高成長

チケキャンがサービスを停止したのは12月7日のこと。同月27日には、運営会社の親会社であるミクシィが2018年5月末にサービスを終了する方針を明らかにしました。

直接の原因は、商標法と不正競争防止法に違反した容疑で兵庫県警から家宅捜索を受けたこと。チケキャンはジャニーズ事務所所属タレントのコンサート情報などをまとめた「ジャニーズ通信」というサイトを運営し、そこからチケキャンの出品に誘導していました。その際、ジャニーズの商標を事務所の許可なく勝手に使った、というのが容疑の中身です。

チケキャンの運営会社であるフンザは2013年3月の設立。2015年3月に「モンスターストライク」で有名なミクシィの子会社になってから、破竹の勢いで成長しました。

子会社化直前の2014年12月時点で8億円だったチケットの月間総流通金額が、2016年12月には58億円まで膨張。わずか2年の間に7倍以上の規模に成長したのです。

安全担保の機能が招いた成長と悪用

高成長の最大の理由は、売り手と買い手の間を第三者であるチケキャンが仲介することで取引の安全性を担保する「エスクロー機能」でした。怪しげなSNSなどでチケットを取引することに慎重だった買い手が、チケキャンのこの機能に飛びつきました。

こうして成長を続けてきたチケキャンですが、その一方で、チケットの高額転売を生業にする「チケットゲッター」と呼ばれる人たちの温床にもなっていました。そして今、チケキャンの休止を受けて、彼らが暗躍の場をメルカリに移しているのです。

メルカリも、チケキャンと同様に、エスクロー機能を持っています。これを利用して、チケットの商談をSNSで行い、決済だけメルカリでやるという手口が横行しているのです。

横取りリスクもある「××様専用」

具体的にどうするのかというと、SNSで商談がまとまったら、売り手が買い手に「メルカリに何日何時に××様専用と表示して出品するから、落札してくれ」という指示を出すのです。メルカリのトップ画面から「様専用」+「チケット」で検索をかけると、かなりの出品が出てきます。

買い手が指示通りに落札すると、メルカリから出品者にチケットの送付指示が送信されます。出品者から送られたチケットを手にした買い手が到着通知をメルカリに送ると、今度はメルカリが買い手から預かっていた代金を出品者に振り込む、という仕組みです。

ところが、「××様専用」出品ばかりを狙って横取りするユーザーが出てきました。予定していた相手ではない人が落札したとしても、落札されてしまった以上、出品者は出品物の送付を拒否できません。

メルカリは、あくまでもフリーマーケットアプリなので、不特定多数の中から落札した人が出品物を受け取るというのが大前提であり、ルールです。特定の誰かに落札させることを目的とした出品を受け付けていないため、メルカリにクレームを言っても相手にされません。

「××様専用」出品は、もともとは売り手との交渉で値段が下がった途端、交渉した買い手以外の別の買い手に落札されてしまうリスクを回避するために、“お取り置き”的な位置づけで、ユーザー間で自然発生的に広がった出品方法のようです。ただし、アプリの本来の趣旨に反していることは間違いありません。

ルール違反の取引に流れてはダメ

チケキャンはゲッターを跋扈(ばっこ)させました。それによって、コンサートに行きたいという純粋な理由でチケットを購入しようと思った買い手が、正規料金で買う機会を奪われたことは間違いありません。

一方で、買い手にとっては、高いお金さえ払えば入手困難なチケットが比較的簡単に手に入るプラットフォームであったことも、また真実です。

とはいえ、そのプラットフォームが失われたことで不便を感じたとしても、メルカリの決済機能だけを使った、ルール違反の取引に安易に流れることは避けるべきです。本来の趣旨と異なる使われ方が広まれば、メルカリの存立基盤までもが危うくなりかねません。

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