はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は高山一恵氏がお答えします。

私には72歳になる母と80歳になる父がおり、それぞれ195万円と100万円の年金収入があります。私は家を出ていますが、母宛に毎月17万円を送金しており、父が後期高齢者になった5年前から、母のみ私の扶養家族とする手続きをしました。最近は母の持病により医療費が年間20万円程度かかっていますし、母ももうすぐ後期高齢者になります。母への送金は続けるつもりですが、両親と私の健康保険料や住民税および医療費の負担などをトータルで考えた場合、このまま母を私の扶養にするのと、父の扶養に戻すのとでは、どちらが有利でしょうか?

〈相談者プロフィール〉
・女性、45歳、既婚、夫(40歳・会社員)、子供なし
・職業:会社員
・居住形態:持ち家(マンション)
・住んでいる地域:兵庫県
・手取りの世帯月収:夫300万円、私500万円
・毎月の支出目安:住宅ローン8万円、生活費30万円、母への送金17万円
・私の資産:預貯金1,100万円、株式1,000万円、持ち家(ローン残高600万円)
・両親の資産:預貯金500万円、持ち家


高山: ご質問ありがとうございます。近いうちにお母様が後期高齢者に該当する年齢になり、自分の扶養に入れた方がよいのか、お父様の扶養に入れた方がよいのか迷われているとのこと。

実際のところは、さまざまな角度から詳細に検証する必要がありますが、今回はいただいたデータの範囲でご回答できればと思います。なお、お母様はまだ72歳ですが、今回はお母様が後期高齢者になった場合を想定してお話します。

別居の親でも子供の扶養に入れることが可能

ご相談者様は、すでにお母様を扶養に入れていらっしゃるので、親を扶養にいれることのメリットはお分かりになっていると思いますが、念のため、親を扶養にいれるメリットを整理しておきましょう。

ご相談者様は、親とは別居していて毎月17万円をお母様に仕送りしているとのことなので、それを前提にお話しします。

まず、親を扶養に入れるといっても、「健康保険上の扶養」と「税金上の扶養」の大きく2つに分けられます。

別居している親を健康保険上の扶養に入れるには、「別居親(60歳以上)の年収が180万円未満であること」「別居親の収入が被保険者(子)からの仕送り未満額」が条件になります。ご両親それぞれの年金収入が195万円と100万円とあります。仮にお母様の方の年間の年金収入が100万円でしたら、仕送りは年間204万円になりますので該当しますね。

親を扶養にいれることができれば、親は保険料の負担なしで健康保険に加入することができ、かつ、同じ健康保険に加入している家族同士は、医療費が高額になった場合に適用される高額療養費の世帯合算もでき、医療費の負担を抑えることができます。子供の側も親の医療費控除を利用できるメリットがあります。

親を扶養に入れると、子供側の税金が有利に

次に税金上の扶養について見てみましょう。ざっくり言うと、生計を一にしている親が65歳以上の場合、年収が158万円以下なら扶養に入れることができます。

親を扶養に入れると、子供の所得から扶養控除を差し引くことができ、70歳以上の別居親の場合、48万円の老人扶養控除が適用されます。

相談者さんの所得税の税率が10%だとすると、4万8,000円の節税に。住民税は、70歳以上の別居親の場合、38万円の老人扶養控除が適用されます。住民税は、一律10%なので、3万8,000円の節税に。所得税、住民税合わせると、年間で8万6,000円の節税になります。

これに前述した本来親が支払うべき保険料の負担がなくなるので、親を扶養に入れるとお得になることが多いといえます。

親が後期高齢者になった場合は、自分の扶養から外すべき?

では、親が75歳以上になり後期高齢者になった場合はどうでしょうか?

これは、今回のご相談者さんのお悩みでもありますが、親が75歳以上になると子供の健康保険の扶養に入れることはできず、75歳以上のすべての人が後期高齢者医療制度に移行します。

後期高齢者の医療制度の保険料は親自身の自己負担になります。保険料は一概にはいえませんが、平均で月額1万円程度の負担になるようです。

そこで、お母様をお父様の扶養に戻すかということですが、仮にお母様がお父様の扶養に入った場合には、老人控除対象配偶者として48万円の控除が適用になります。ただし、そもそもお父様の年金の収入からすると、所得税、住民税の負担は少なく、老人配偶者控除を受けられたからといって、大きな金額が節税できるわけではないでしょう。

一方、このままお母様が相談者さんの扶養になった場合はどうかというと、後期高齢者医療制度と健康保険は制度が違うため、医療費が高額になった場合に適用される高額療養費世帯合算はできなくなくなってしまいますが、所得税、住民税の節税のメリットは享受し続けることができます。

また、後期高齢者医療保険制度の保険料は年金から天引きされるのが原則ですが、生計を一にしている家族の口座から払えるケースも。子供が親の保険料を負担し、支払った保険料を社会保険料控除として所得控除ができると、さらに、所得税、住民税の節税につながります。

節税は所得税率の高い人を軸に考えるのが有効

節税を考えた場合には、所得税率の高い人を軸に考える方が有効です。相談者さんの場合、今後も月額17万円もの仕送りを続けるとのことなので、できるだけ、相談者さん自身の節税を考えた方がよいでしょう。

とはいえ、今後、親の医療費がもっとかさんでくるという場合には、子供の扶養に入れない方が、親の所得を基準にした低い自己負担限度額が適用されて、そちらの方がお得になるということもあるかもしれません。

お母様が後期高齢者になるまでに数年あるので、状況を見ながらどちらが得かを考えることも大切ですね。

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