遊休資産や空き時間を共有する「シェアリングエコノミー」という概念が大きな広がりを見せています。その波はさまざまな分野に及んでおり、農業分野においても共有経済の動きが起き始めています。

ただし、これまでの農業系シェアリングエコノミーといえば、都市在住者向けの農業体験だったり、農場や農業機械をシェアするといったものが中心。有体に言ってしまえば、“なんちゃって農業” “なんちゃってシェアリング”が主流でした。

そんな中、生業としての農業においてシェアリングの取り組みを進め、日本の有機野菜の流通システムを変えようという動きが、ブランド有機野菜で知られる宮崎県綾町で始まりました。いったいどんな計画が進められているのでしょうか。


「地方にとって、この上ない喜び」

「地方の一番の悩みは、自然という資源をもとにして、産業・経済と融合させながら、どう発展していくか。今回の取り組みは、これからの社会の方向性を的確にとらえており、地方にとってはこの上ない喜びです」

4月19日に都内で開かれた、宮崎県綾町とベジオベジコの連携協定発表会。その席上、綾町の前田穰町長は、こう言って喜びを表現しました。

今回、綾町とベジオベジコが発表した提携内容の1つは、ベジオベジコが運営する有機野菜のデリバリーサービス「VEGERY(ベジリー)」を通じて、綾町のPRを行うというもの。

具体的には、ベジリーのアプリ画面に「綾町」というカテゴリーとマークを作成し、綾町産の野菜をPRするほか、商品を宅配する際に綾町のパンフレットやふるさと納税の資料を配布する、といった内容です。

ベジリーの特徴は、農家を回って商品を集荷し、東京まで運び、玄関先まで配達するという一連の工程を、すべて自社のスタッフが担当している点。これによって、流通コストを通常の3分の1まで下げるとともに、配送にかかる日数を通常の半分以下となる2日に短縮しました。

都心8区であれば注文から最短1時間で宅配してくれるのも、特徴の1つ。リピート率は58%と、一般的な野菜のEC(ネットショッピング)サイトの20%を大きく上回っています。

農業をどうシェアするのか

今回の綾町とベジオベジコの連携は、ベジリーを通じたものだけではありません。今年1月に設立した農業法人「VEGERY FARM(ベジリーファーム)」のスキームを生かして、耕作放棄地の有効活用も進めます。

具体的には、綾町から耕作放棄地の情報をベジリーファームに提供するほか、綾町の農業振興課を通して新規就農希望者をベジリーファームに紹介したり、栽培技術の発展を支援するというものです。

綾町には現在、約11ヘクタールの耕作放棄地があります。このうちの3割に当たる約3ヘクタールを2020年までに活用することを目標にしています。まずは年内に10人前後の新規就農者を確保したいといいます。

  
「空間」「時間」「スキル」をシェアする「ベジリーファーム」のスキーム 

ベジリーファームでは、農家の畑を活用して野菜を育てる「野菜のシェアリングエコノミー」を標榜しています。農家が休ませている土地や耕作放棄地に、ベジリーファームが雇用した農業志望者を派遣。ベジリーの販売データから捕捉した人気野菜を、農家の余裕のある時間に指導してもらいながら、栽培するというスキームです。

農業への新規参入の現状について、ベジオベジコの平林聡一朗代表は「就農すると決意しても、初期費用や販売先の確保など課題が非常に多く、若者の職業選択の候補に入ってこない」と話します。

こうした状況を受けて、ベジリーファームでは自社のスタッフとして新規就農希望者を雇用することで、新規参入のハードルを取り払うという狙いがあります。一方で、農家にとっては、後継者不足の中で自分の思いやノウハウを次世代につなげる機会を作ることができます。

ベジリーファームのスキームで1月にまいたレタスの種は、すでに4月から収穫・販売を開始しているそうです。現在、ベジリーに掲載している野菜のうち綾町産のものは5~6割ですが、今回の連携によって7~8割まで伸ばしたい考えです。

集荷・出荷もシェアリング

綾町が抱えるもう1つの課題は、綾町の野菜を使いたい業者は多いのに、流通の態勢が整っていない点です。今回の連携には、こうした課題の解決に向けた策も盛り込まれています。それが「ベジステーション@綾町」です。

これまで、綾町の野菜を使おうと思うと、各農家に発注して、業者が取りに行かないといけない状態で、業者に負担がかかっていました。一方の農家にとっても、それぞれの業者ごとに出荷対応しないといけませんでした。

こうした現状を改め、農家が発注を受けた野菜をベジステーションまで持っていくだけで必要な作業は完了。業者は注文しておいた野菜をすべてステーションで受け取ることができる、という仕組みです。

まずは綾町にあるベジオベジコ本社の一角を使って展開。軌道に乗れば、他の自治体にも広げていきたいといいます。

日本の農業が抱えている課題を、シェアリングという概念で克服し、おいしい野菜を全国に広げていこうという今回の取り組み。順調に拡大していけば、私たち消費者にとって有機野菜がこれまでよりも身近な存在になるかもしれません。

(文:編集部 猪澤顕明)