はじめに

他人の気持ちを感じとり、他人と「共感」しあえる部分が見つかった時、いい人間関係ができ、ひいては、いい仕事ができていた。ここでいう「共感」とは、意思の疎通がうまくいき、心や気持ちが通い合い、お互いのことを理解して、相手のことを好きになって、自分のことも好きになってもらうということだ。(本書18ページより)

これは元吉本興業のカリスマ広報マンであり、現在はコミュニケーションの専門家として活動している竹中功さんの近著『他人も自分も自然に動きだす 最高の「共感力」』の中の言葉。

竹中さんによると、良いコミュニケーションに必要な「相手の信頼や承認欲求」に応えるのが「共感力」だといいます。その力があればヒトが動き、モノごとが動きだすのだとか。

第1章「他人も自分も「気持ちよく動く」カギは、共感する力だ!」から、共感力についていくつかのポイントを抜き出してみます。


そもそも良いコミュニケーションとは?

「良いコミュニケーション」のことを、「心のキャッチボールが上手くいっている状態」と竹中さんは定義します。楽しいキャッチボールを続けるには、相手を尊重すること、そして信頼し合うことが必要です。お互いの力量が違うのなら相手に合わせて手加減をするということを忘れてはいけません。また、相手が捕れるわけもない方向に投げていては、キャッチボールは続かないし喧嘩になってしまいます。

他人に受け入れてもらいたければ、こちらも他人を受け入れなくてはなりません。つまり、「共感力」の有無が心のキャッチボールの結果に大きく関わってきます。

ここで肝心なことは、「まず先に自分が自分を愛することができているかどうか」ということだというのです。愛するということは自分に優しくするだけではなく、厳しくすることでもあります。まずは自分をしっかりと観察し、いいところや悪いところを知ったうえで、自分を愛することを身につける。それができたら他人を知り、他人を愛することができるようになります。

他人と自分の快楽と苦悩の違いを知る。そのうえで「共感力」を身につければ、無理なく他人ともいい関係になることができるのです。

笑いがなくてはコミュニケーションではない!?

竹中さんの持論は「笑いがなくてはコミュニケーションではない」というもの。たとえば、なんだか元気がないとき、ふとバラエティ番組を目にし、出演者たちの笑っている姿を見ているうちに、こちらまで笑顔になっていたことはないでしょうか?

「笑い」は「笑い」を誘い、色々な不安も忘れさせてくれる活力の源です。だからこそ、コミュニケーションの話題のなかに「面白い」ことや「笑える」ものが含まれると、良い人間関係がスピーディーに築かれるのです。

相手とのコミュニケーションがうまくいかないときは、進んで笑顔で話し、進んで笑ってみましょう。笑いはじめると、本当に楽しくなってくるものです。

具体的に笑いをコミュニケーションに取り入れる方法としては、「他人と話す時に面白いことをいう。失敗談をする。ユーモアを織り込む」などがあります。他人から楽しい人だと思われやすく、そして共感できる人という認識を持ってもらえ、距離が近くなるのです。また声を上げて笑うということは脳内麻薬ともいわれているエンドルフィンの分泌を促進し、多幸感をもたらすといわれています。

ミスや失敗をしたときに「自分は知らない」と強がらず、素直に認めることも、いい「自己表現」だといえます。立場に関係なく、弱点をさらすことによって人間味を感じとってもらえ、共感を呼ぶのです。

「共感する力」とは「相手の気持ち」と寄り添うこと

共感するために、相手の気持ち、すなわち受け手の感情をどうやって感じとればいいのでしょうか。

ポイントとなるのが「選択権は自分にある」という感情を誰しももっていることを忘れないことです。これは、相手より優位に立ちたいという心理から来ているもので、逆にいうと「相手から一方的に選択されると不快になる」「相手に時間の制約をされると耐えられない」という気持ちがあるということです。

たとえば、興味のある行列のできるラーメン屋には進んで並ぶのに、ファストフード店で待たされると少しの時間でも我慢できずに腹が立つことがあります。自分の時間や思考を人にコントロールされると、人は反発心や不快感を抱きます。

対等な立場で共感し合えることが、良いコミュニケーションの理想です。だからこそ相手の立場に立ち、一方的な命令ではなく相手の気持ちに寄り添うことで、コミュニケーションの結果は大きく変わります。

これは竹中さんの専門分野の1つでもある「謝罪」でも同じことがいえるのだとか。吉本興業で広報を担当していたとき、幾度も芸人の不祥事の謝罪会見の現場をとり仕切ったそうです。事故が起こった時など、加害者が「これぐらい謝ったからもうええやろう」「もうそろそろ許してくれはるやろう」というのは大きな間違いであり、答えを出すのは被害者だということを強く念頭においていました。

加害者が勝手に答えを出していては謝罪は成立せず、泥沼にはまります。そうならないためには、自分本位にならず、相手の側に立った視点が大事なのです。「相手の気持ちを察したら、どういう行動をとればいいのかが見えてくる」。それが共感する力の基礎といえます。

そうはいっても、どうしても共感できない人はイッパイいる

そうはいっても、相手に共感し続けるのは疲れてしまうという人も多いでしょう。

人との関わりは家族や友人、同僚など色々ですが、「全員と理解し合えるわけではない」と竹中さんは助言します。そもそも、それができていたら戦争もないはずで、さまざまな立場や個性がぶつかり合えば、歪みも出てきて当然です。

相手と分かり合えないことと自身の共感力が弱いこととは必ずしも同じではないと心得る必要があります。なかには「こっちは悪くないので、向こうが謝るまで、仲良くする気はない」と言い切る人もいるでしょう。「これ以上、距離を近づけたくない」という人もいるかもしれません。

とことん話し合ったり、誤解があれば謝罪したり、十分に相手のことを考え「共感」する力を使ったとしても、どうしても分かり合えない時には離れればいい。他に気にすることがイッパイあるはずだから、そちらに目を向ける。それが大切だというのです。

誰かと一緒にいる時に本来の自分でなくなる「負の共感」を感じとることがあったら、即その場から逃げればいい。自分の身は自分で守らねばならない。危険を感じたら逃げればいいのだ。 
嫌な学校なら行かないほうが安全かもしれない。嫌な会社だからといって辞めにくいだろうが、働き方の改革や革命は自分で起こせるのである。あまり自分に無理をして我慢をして生きていくより、前向きに新天地を探してみるのもいいだろう。(本書50ページより)


『最高の「共感力」』は、「他人と共感して動いてもらうためのイロハ」や「他人ともっと共感するためのコツ」など、人間関係や仕事の悩みに効くコミュニケーション術が満載の1冊。元吉本興業伝説の広報マンが教えてくれる他人との関わり方は、クスっと笑えて前向きになれる内容です。

最高の「共感力」 竹中功 著


ダウンタウンなどのスターを生み出したNSCの創設に関わった、元吉本興業の名物広報マンによる、「他人と共感して気持ちよく動いてもらう」方法。笑いの活用、感じる力の高め方など共感するわざ満載!

記事提供/日本実業出版社

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