はじめに

最近は中国に関するニュースというと、米中貿易摩擦、中国における負債の拡大、シャドーバンキング(影の銀行)など、ネガティブなものばかりを目にします。しかし、中国の経済がどうなっているのか、という基本的な部分にはあまり焦点が当たっていないようです。今回は基本に立ち返り、中国の経済について、代表的な指標を見ながら確認していきましょう。


経済指標は全体的に強くはない

まず、経済全体を俯瞰するために、四半期ごとに発表されるGDP(国内総生産)の成長率を見てみましょう。中国国家統計局が発表している数字を見てみると、2018年第2四半期(4-6月)の実質GDPの成長率は前年比6.8%増と、前期(1-3月)から0.1%低下しました。2017年の第1四半期から成長率が頭打ちしているのは下図からも読み取れるかと思います。

 (出所)中国国家統計局のデータを基にFinatext作成

産業別にGDPを見てみると、2018年第2四半期は第一次産業の成長率は前期から変わらなかったものの、第二次産業は前期から0.3%低下し、一方で、第三次産業は前期から0.3%上昇しています。サービス業やIT企業が今後の中国経済をけん引していく分野ですが、これらの産業がどれだけ高成長を続けるかが、中国全体のGDPの成長に大きく影響してきます。

次に、PMI(Purchasing Managers's Index、購買担当者景気指数)を見てみます。製造業PMIは2018年5月の51.9%をピークに2か月連続の低下となっています。非製造業PMIも7月は54%と前月から1%下落しました。同指標には予想指数というものもありますが、製造業、非製造業ともに低下しています。製造業はこの数ヶ月で既に陰りが見えていましたが、非製造業においても減速感は否めなくなってきました。

 (出所)中国国家統計局のデータを基にFinatext作成

その他にも、主要31都市の2018年7月の失業率は前月から0.3%上昇し5.0%となっており、昨年12月以来の水準まで上昇しています。また、2018年7月の小売売上高は前年同月比8.8%増と前月から0.2%低下しています。消費者信頼感指数も直近の数値では頭打ちしています。

このように、代表的な経済指標を見てみましたが、直近の数字を見る限りでは、中国経済はあまり良い状態ではないと言えるかと思います。

家計に潜む危険な爆弾

しかし、中国の場合は経済環境が悪くなると、政府が大型の財政出動をして景気回復に努める傾向があります。いまから10年前のリーマンショック後に、政府が総額4兆元(当時のレートで約52兆円)にものぼる、巨額な財政出動をしたことを覚えている方も多いかと思います。

筆者は経済指標が一時的に悪化することについては、それほどの懸念は抱いていません。気になるのは、それが発端となって危機が他の部分に飛び火することです。具体的には、中国の家計が抱える債務の膨張には注意が必要と考えています。

下図は中国のGDPに対する家計の債務比率の推移です。国際決済銀行(BIS)によると、2017年第4四半期時点での家計債務のGDP比率は48.4%となっています。中国人民銀行によれば、この家計債務の6割近くは住宅ローンになっていると言います。

 (出所)国際決済銀⾏のデータを基にFinatext作成

今後、同国の経済指標を見ていく上で重要なのは不動産価格や、企業の利益、失業率などでしょう。特に不動産価格は重要で、ここが大きく下落し始めると、負の連鎖が想像以上のスピードで起こる可能性は十分に考えられます。

米中貿易摩擦の行方は

最後に、米中の貿易摩擦についても考えてみます。今年の3月22日に対中制裁措置が発表されたことから、今日にいたるまで、米国と中国による貿易摩擦が続いています。米国は6月に第一弾として500億ドル相当の中国製品に25%の追加関税を課すリストを発表し、さらに7月には第二弾として、2,000億ドル相当の中国製品に10%の追加関税を課すリストを発表しました。中国も第一弾の500億ドルに対して同額の報復措置をとり、第二弾に対しては600億ドル相当の米国製品に5%から25%の追加関税を課す方針を発表しています。

米中貿易摩擦の表面化により、その都度、世界的に株価が下がるような場面もあり、未だに終わりが見えないことから、本格的な両国による貿易戦争に発展してしまうのではないか、という懸念の声も耳にします。

しかし、筆者は本件についてはそこまで深刻な状況には陥らないと考えています。なぜなら、投資家の予測が反映される株式市場が、ある一定の方向を見せているためです。

米国株式市場がS&P総合500種とナスダック総合が最高値を更新している一方で、中国株式市場と同国の通貨である人民元は下落傾向にあります。つまり、この貿易戦争の結果について投資家は既に方向性を見いだしているのだと思われます。

米国の商務省が今年2月に発表した2017年の貿易統計(通関ベース)によれば、米国の対中貿易赤字は前年から8.1%増加し、3,752億ドルとなりました。これは全体の半分近くに上ります。

つまり、米中の貿易で見ると、中国が圧倒的に恩恵を受けてきたことになります。仮に、今後も関税引き上げ合戦が続いたとしても、一方的に苦しくなるのは中国なのです。そう考えると、発言の過激さが目に付くトランプ大統領は、実は非常に賢く動いているのかもしれません。

(文:Finatextグループ アジア事業担当 森永康平)

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