はじめに

季節は巡り、「勉強の秋」になりました。皆さんはこの秋、何を勉強しようと考えていますか。

「正しい英語の学習法」は人によって主張はさまざまです。その中でも多くの人に聞き覚えがあるのが、「英語学習は英会話スクールで講師に教わるもの」「海外留学をして、周囲が英語を使う環境に身を置く」といった「英語は体で学ぶもの」という主張です。

「英語を身につけるには、英会話の実践訓練」というのは、多くの人が認識している学習法ではないでしょうか。しかし、英語学習は日本から出ず、講師を付けず、独学で、リーディング中心で身につける、という学習法こそが最強であると、筆者は考えています。

英語力ゼロからTOEIC985点、英検1級を取り、英語学習法の著書まで発売した筆者が3回にわたって、「最強の英語学習法」をご紹介したいと思います。


あの偉人も独学・読解で英語を身につけた

そうはいっても、私一人が主張していても説得力がないでしょうから、歴史上の人物に目を向けてもらうところからスタートしましょう。

ドイツの考古学者のハインリヒ・シュリーマンは、18ヵ国語をマスターとした「語学の天才」として知られています。シュリーマンは外国語の本を読解し、文章を暗記するという独学で身につけています。

また、日本の誇る細菌学者・野口英世は、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』を熱心に読み、やはり独学で英語を身につけ、米国で細菌の研究で活躍をしています。

当時は今のように英会話スクールもインターネットもなく、海外留学もせず、独学で英語を身につけているわけです。そしていずれも「外国語を読解する」という点で共通しています。昔は、今のように多様な選択肢がない時代でしたから、読解が中心の英語学習法に取り組まざるをえなかったのです。

皮肉なことに現代人はYouTubeやオンライン英会話スクール、聞き流しCDがあることで、英文読解による英語学習法から遠ざかってしまったといえるでしょう。今も昔も、そしてこれからも「お金をかけない読解中心の学習法」こそが、最短最速かつ最も投資効率の良い学習法であることを、歴史的な偉人が証明しているのです。

読解学習が最強である根拠は「時間密度」

米・国務省の付属組織FSI(Foreign Service Institute、国務省に採用された新人たちに外国語研修を行う)によると、英語のネイティブスピーカーにとって、日本語は最も習得が難しい言語の1つとされています。新人たちが日本語を習得するのにかかった平均時間は約3,000時間近くに及ぶ、というデータがあるのです。

これは、日本語のネイティブスピーカーが英語を習得する場合にも当てはまります。3,000時間というと、1日8時間、週5日間勉強したとして40時間になりますから、1ヵ月で160時間、1年で1,920時間になります。このペースで学習を進めても1年半かかる計算になるわけです。

英会話スクールや留学を通じて英語学習をするとなると、毎日8時間かつ週5日というのを1年半も維持するのは、あまりにも非効率で高コスト。しかし、独学は違います。独学であれば、会話練習の相手も必要ないですし、すでに理解しているところをどんどん飛ばして、自分に必要な学習領域に時間を集中投下できます。

「自分の理解度や能力に合わせて好き勝手にやれる」という点にこそ、読解による英語学習法のメリットがあるわけです。英文読解が最強の英語学習法である最大の理由は、独学ゆえに密度が濃く、効率的という点にあります。

多読の力は外国語に限った話ではない

たくさんの活字を読むことの効用は、何も外国語に限った話ではありません。あなたは「日本人=日本語マスター」と考えてはいないでしょうか。日本人同士でも、日本語の運用能力には人によって大きな差が生まれます。

日常的にビジネス書や経済紙を読んでいる人と、ほとんど活字を読まないという人との間で「お元気ですか」というあいさつは通じるでしょう。しかし、世の中の諸問題やビジネス上の課題、人生観といったお互いの意見を出し合う場においては、言語運用能力の差が大きいことで会話にならないことはよくあります。

母国語であっても活字をよく読む人と、そうでない人とでは、語彙力、表現力、文章力、理解力、読解力の面で、比較にならない差がついているものなのです。

英語についても同じです。「今日は天気がいいですね」といった表面的な会話を何千時間重ねたところで、ビジネスや留学で役に立つ、真の英語力は身につきません。ですが、自分の専門分野や、ニュースといった英文を読解することで、そこで載っている表現や語彙は読めば読むほど自分の血肉となっていきます。

とにかく日々、英文を読み続けることでアメリカ人を凌駕する専門語を身につけることになるわけです。ビジネスなどの実践に耐えうる語学力を身につけることこそ、本当に生きた英語といえるのではないでしょうか。

仕事で生かせる英語力とは?

筆者は米国の大学で会計学を専攻していましたが、日々たくさんの会計の問題を解き、理論を学習しました。ある時、アメリカ人の友人が筆者の読んでいる経済新聞のファイナンス欄を見て、「難しいのを読んでいるね。これは会計語だから、英語で書かれていても私には読めない」と言いました。筆者が読んでいたのは英語ではなく、会計語だったわけです。

多くの英語学習者のゴールは「仕事で英語力を生かす」ということではないでしょうか。これはつまり、実用的な英語運用能力を求めているということにほかなりません。それには専門分野の学習が必要であり、そこに英会話の介在する余地はありません。専門書をしっかり読みこなす英文読解能力こそが不可欠なのです。

そして、英文読解能力は海外に行ったり、駅前留学をしなくても、自室で一人で学習を進めることができます。野口英世は『ヴェニスの商人』を読みこなすことで、米国で医学の研究を行い、専門家の前で発表までやってのけました。それを支えたのは、膨大な「英文を読む」という訓練なのです。

英文読解を通じた学習法がいかに最強なのか――。それをご理解いただいたところで、実際に運用する方法について、明日配信の第2回以降でご紹介したいと思います。

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