生活

企業が財テクに走り、3Kが嫌われ始めた、あの時代

お金のことば43:経済のバブル語(1)

ここ最近のマスコミでは、バブル時代の文化や社会風俗を振り返る企画をよく見かけます。来年の改元を控え、平成を総括する機運が高まっているのでしょう。そういえば平成は「バブル景気から」始まった時代だったのです。

そこで本連載でも、バブルを象徴する経済関連の言葉――ここでは便宜的に「バブル語」と呼びます――を振り返ってみたいと思います。今回はその第1回(全3回)です。


経営のバブル語(1)財テクは個人投資家向け?

まずは経営分野の言葉から振り返ってみましょう。この分野で注目してみたいバブル語は「財テク」です。

この言葉に対する印象には、大きな世代差があるかもしれません。試しに検索エンジンで「財テク」という言葉を調べてみてください。結果の上位には「初心者にもできる財テク」とか「低収入でも財テクできる」といった題名が並ぶことと思います。これらに共通するのは「個人投資家に向けた記事」ということ。若い人が想像する財テクは、主にこの文脈の財テクかもしれません。

しかし『岩波国語辞典』(第七版・岩波書店)では、財テクを以下のように説明しています。

「(本来は)会社(転じて個人)が、証券や不動産の投資で、資金運用のもうけを図ること。▽「財務テクノロジー」の略として一九八〇年ごろ言い出された。へそくりを「奥さんの―」のように言うのは俗用。」

この説明にある通り、財テクという言葉は、もともと「企業」に対する文脈で登場した言葉でした。

経営のバブル語(2)財テクは本来、企業向け

財テクという言葉が登場したのは1980年代のことでした。念のために付け加えると、言葉の普及時期はバブル景気(おおよそ86~91年)よりも前のことです。

80年代、金融界では規制緩和(金融自由化)が段階的に進行していました。その結果、企業は低金利による資金調達が可能になり、その資金を投資に回す「儲けのしくみ」ができあがりました。

やがてバブル景気が到来。「『企業の財務担当者で財テクを行わない者は無能である』と言われる時代」が訪れたのです(参考:『戦後経済史~私たちはどこで間違えたのか~』野口悠紀雄著、東洋経済新報社、15年6月)。これが、経営分野における「本業軽視」の風潮に繋がっていきます。

ちなみに財テクは、先端技術を意味するハイテク(high-tech)との洒落でもありました。当初は「ザイテク」とカタカナ表記することも多かったのですが、その表記には、ハイテクとの関連性を印象付けるという意図もあったのです。例えば政治評論家の竹村健一は、84年に『ニューパラダイム時代~先端技術(ハイテク)財務技術(ザイテク)が未来を制す~』(太陽企画出版)という書籍を発表しています。

経営のバブル語(3)バブル崩壊後の反動

結局、財テクのブームは、バブル崩壊とともに消え去っていきます。その代わり経営界では「特化」や「選択と集中」という言葉をよく見聞きするようになりました。

そもそも「特化」という言葉自体が、バブル崩壊以降に一般に広まった経緯を持っています。言葉の誕生自体は明治時代と古いのですが、しばらくの間、一般での使用例は少なかったのです。しかしバブル崩壊後の1990年代後半、日本経済新聞で「特化」の登場数が増加。それにつられるようにして一般紙での登場数も増えました。国語辞典に「特化」の項目が登場したのも、実は90年代以降のことです(参考:『謎だらけの日本語』日本経済新聞社編、日本経済新聞出版社、13年9月)。

いっぽう「選択と集中」という表現がもてはやされたのも、おおむねバブル崩壊以後のことでした。国立国会図書館サーチ(同館の所蔵資料を検索できるサービス)で「選択と集中」を検索すると、90年の資料数が1件だけであるのに対して、2000年の資料数は51件にまで増えていました。そしてその資料の多くが、経営の「選択と集中」を語っていたのです。

バブル時代に登場した本業軽視のトレンドが、バブル崩壊を経て本業重視のトレンドに大きく変化した、ということになります。

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