はじめに

世界的には、米中貿易戦争の行方や中国の景気鈍化などが最大の注目材料となっていますが、直近はその影響がアジアの新興国に拡がりつつあります。どのような国、企業が影響を多く受けているか、今後の見通しを含めて考えてみたいと思います。


アジア新興国の景気動向はどうなっている?

一般的に景気動向を図る指標として、GDP成長率があります。こちらは大変重要な景気指標のひとつですが、このGDP成長率は3ヵ月の期間の状況を発表しているもので、直近分であれば、比較的発表の早い国では2018年10~12月を対象とした成長率が発表されています。

このGDPより最新の景気動向を知ることができる指標のひとつにPMIという指標があります。この指標は、日本で発表されている景気動向指数と同じように、国内の主要企業を対象に足元の景況感を確認して集計した指数となっています。50を上回っているか下回っているかによって、好景気か不景気かを判断する基準のひとつとするものです。

GDPの対象期間が3ヵ月であるのに対してPMIの方は1ヵ月間です。さらに、当該月の翌月月初に発表されるため、速報性という点ではGDP以上に有用な側面を持っているといえます。直近の最新分としては、各国ともに2019年1月を対象としたPMIまで発表しています。

ではここで、アジア主要国のPMI推移のグラフを見てみましょう。(1)は時価総額が比較的大きい国、(2)はそれより規模の小さいASEANの主要国を対象としています。

グラフをみるかぎり、インド以外は景気減速感がうかがえます。なかでも、特に、景気減速感が強まっているのが、台湾です。台湾の1月のPMI指数は47.5と、50を大幅に下回りました。現在の発表方式になった2016年以降で最も低い水準です。

なぜ台湾の減速が顕著なのか

台湾は、従来からパソコン、スマホ等IT関連機器を多く製造販売しているため、世界的ハイテク市況の影響を受けやすい国で、直近のPMIは世界的なハイテク不況、スマホ減速がストレートに響いている状況です。

また、国の経済状況だけでなく、個別企業の景況感にも陰りがみられます。台湾最大で世界的大手ファウンドリー企業であるTSMC(台湾積体電路製造)は、2018年10~12月期決算と。2019年1~3月期予想を発表しました。実績は収益ともにほぼ前年並みでしたが、今後の期についてはかなり弱気見通しを示しています。

大手TSMCの弱気見通しは、世界景気の先行きに対する不安感を象徴しているといえます。今のところ、台湾を含めアジア新興国の個別企業は決算発表を行なっていませんが、今後発表が本格化する個別企業の収益状況が注目されそうです。

そのようななかで、台湾では62018年11月に、4年に1度の統一地方選挙が実施されました。結果は、蔡英文総統の与党民進党の大敗で、2020年に実施が予定されている次期台湾総統選を前に、蔡政権はノーをつきつけられた、という状況です。グローバル経済の減速に加えて、国内の政治的混乱も台湾にとっての不安材料になっているといえます。

この環境下で成長が見込める国は?

中国が高度成長期を迎えた2000年代初め辺りから、世界市場で国境をまたいだ国際分業の流れが強まり、そのなかで、台湾を含めたアジア新興国は、世界の貿易サイクルのなかで欠かせない存在となっていました。しかし、2018年に米国トランプ大統領の仕掛けた米中貿易戦争以降は、世界的景気減速、保護貿易主義の流れが強まり、これらアジア新興国の貿易縮小を招きました。

しかし、その動きに逆行しているのが、2018年12月30日に発効した「TPP11」です。11の加盟国合計のGDPは世界のGDPの約13%を占める規模で、11ヵ国のうち、価格競争力などの面でベトナムが最も恩恵を受けるとみられています。

また、「TPP11」だけでなく、米中貿易戦争が長期化していることも、ベトナムにとっては追い風となっています。生産拠点を中国からベトナムに移転する方が得策、と判断する経営者が増えているためです。実際、直近は工場移転のケースが散見されます。

以前の中国では、安い人件費・豊富な人材・税制優遇、WTOへの加盟、などを武器に海外からの投資を呼び込み、その後は外資頼みではなく、徐々に自国の技術力を高めていく、というパターンで高度成長につなげてきました。

今のベトナムの状況をみるかぎり、中国ほどのスピード感はないものの、中国と同じ道をたどっており、この度のTPP11発効は、ベトナムの経済発展にとって大きなきっかけになりうると思われます。

<文:市場情報部 アジア情報課長 明松真一郎>

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