はじめに

今年で10年目を迎えた、リクルート住まいカンパニーのまとめによる「住みたい街ランキング関東版」。2月28日の発表以降、多くのメディアが「横浜が2年連続の1位を獲得」「埼玉を代表する大宮、浦和の2大都市の躍進」といった内容を中心に報じています。

しかし、不動産専門のデータ会社である東京カンテイの井出武・上席主任研究員は、別の街に注目します。その街こそ、JR中央線沿線の三鷹。「三鷹には、最近進みつつある“首都圏の都市の変容”にまつわる要素が詰まっている」と分析します。

はたして、多くの人が街に求める要素に、どんな変化が起きているのでしょうか。最新の住みたい街ランキングの内容を深掘りしてみます。


三鷹は38位から16位に上昇

かつては「住みたい街」の代名詞的存在だった二子玉川(東急田園都市線)と自由が丘(東急東横線)。二子玉川は2012年のランキングで8位に位置していましたが、2018年は16位、今年は17位まで後退しました。自由が丘に至っては、2012年の3位から、2018年は13位、今年は19位まで転落する結果となっています。

一方で、大幅な躍進を遂げたのが三鷹。2018年は38位でしたが、今年は16位と大きくジャンプアップしました。

東京カンテイの井出さんの分析によると、三鷹のような郊外の中核都市は、一昔前までは東京都心に通勤する人のベッドタウン以上の意味合いはなかったといいます。しかし、働き方改革や団塊世代の退職などに伴い、通勤者数が減少。都市間の若年層の争奪戦が激化し、うまくいっている街とそうでない街で濃淡が現れ始めているとみられます。

この“うまくいっている”という言葉の指す意味は、「街としてのポジショニングが個性的であるかどうか」だと、井出さんは指摘します。つまり、住みたい街に対する“憧れ”の部分が衰退する一方、交通や商業集積度、休日の楽しみなど、総合的に“実用的”であることが重視され始めているというわけです。

「文士の街」としてブランディング

三鷹を例にして考えてみると、JR中央線の特別快速が停車し、新宿駅や東京駅まで短時間かつダイレクトに通勤が可能。JR中央・総武線の始発駅でもあり、東京メトロ東西線にも直通しているため、大手町まで座って通えるメリットがあります。

こうした交通利便性だけでなく、駅の南側を中心に再開発計画が複数進行中。駅直結の商業施設や商店街も発達しており、買い物の利便性も高いという特徴があります。

太宰の陸橋
太宰治がよく訪れたという陸橋

加えて、近年は「文士の街」としてのブランディングも推進。太宰治や山本有三の記念館があるほか、太宰や森鴎外の墓、太宰関連のさまざまな遺構もあり、文豪好きには極上の街に進化しているそうです。文豪をキャラクター化し、アニメにもなった『文豪ストレイドッグス』の影響もプラスに働いた側面があるとみられます。

つまり、交通利便性や商業利便性は当然のように確保しつつ、「文士の街」という他の街にはない独自の立ち位置を手に入れたことで、街としての魅力度が一気に高まったというのが、井出さんの解説です。

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