はじめに

東日本大震災の発生から、今日で8年。日本各地で鎮魂の祈りを込めた行事が数多く開かれていますが、東京で暮らしていると日常のあわただしさの前に震災の記憶は徐々に過去のものとなり、思い出すのは3月11日が近づいてから、という人も少なくなさそうです。

しかし、被害の大きかった福島、宮城、岩手の3県では、震災は過去のものではありません。とりわけ、福島第一原子力発電所(フクイチ)の事故により、避難を余儀なくされた区域に住んでいた人たちにとっては、現在進行形の問題でもあります。

3.11から8年が過ぎた被災地の現状はどうなっているのでしょうか。「MONEY PLUS」では、今も一部が帰還困難区域となっている福島県南相馬市小高区を取材しました。


帰還率4割弱という現実

3月4日。記者がJR常磐線の小高駅に降り立った時、朝から降り続いた雨が街全体を覆っていました。低く、どんよりと垂れ込めた灰色の雲は、どこか被災地の現状を表しているようでもありました。

フクイチから20キロ圏内に位置する小高区は、原発事故によって、震災直後に避難指示区域に設定されました。避難指示は一部地域で2012年4月に解除されましたが、今も一部が帰宅困難区域に指定されたままです。

こうした状況もあり、小高区の帰還率は今年2月末時点で37.8%。震災前は1万2,840人が暮らしていましたが、帰還した人は5,000人弱にとどまります。

駅周辺を1時間近く歩いても、すれ違う人は片手で数えられるほど。この街では震災が今も続いていることが、降り続く雨と相まって、記者の心を重くします。

小高ストアに灯る、帰還の“ともしび”

そんな小高区に明るい話題があったのは、昨年12月。市がスーパーの跡地を買い取り、総事業費3億円をかけて建設した、公設民営商業施設「小高ストア」がオープンしたのです。


昨年12月にオープンした「小高ストア」

このストアを運営するのは、隣町の原町区で青果の仲卸を営む丸上青果。同社の岡田義則代表は「地域の賑わい創出や利便性向上に役立ってくれればいい。でも、帰還してほしいという気持ちが一番。地元で一生懸命やっている人たちの販路の1つとして、うちに商品を置いて、情報を発信していければ……」と意気込みます。

そんな小高ストアの入り口から入ってすぐの場所に、目立つ棚が置かれていました。「ふくしま みらいチャレンジプロジェクト」と書かれた緑の棚には、地元・小高の産品がたくさん並べられています。

このプロジェクトは、経済産業省の委託事業として2016年6月に発足。事業者の帰還や生業の再建を通じて、街の復興を支援しようというものです。具体的には、地元企業による自社商品の改良・開発、テスト販売や商談などの販路開拓機会の提供などを行っています。その中から生まれた地元の産品を取り扱っているのが、店頭の緑の棚なのです。

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