はじめに

米ドル円の相場は、111円台前半で推移しており(2019年3月13日執筆時点)、わが国の株式市場に一定の安心感を与えています。しかしながら、なにがこの米ドル高・円安をもたらしているかを説明するのは簡単なことではありません。


理由が説明しにくい堅調ぶり

基軸通貨国である米国において、米ドルの交換価値を把握するひとつの方法として、ドルインデックスがあります。これは、複数の通貨に対する米ドルの価値を示す指標であり、単一通貨に対する為替レート以上に総合的に米ドルの価値を計測することができます。

このドルインデックスをみると、過去1年間緩やかな上昇トレンドにあります。

図1

この上昇は、2018年4~6月期のように米国の実質GDPが前期比年率4%を上回り、米連邦準備理事会(以下、FRB)が政策金利を引き上げていた局面では自然なことのように思えます。

しかし、足元では米2月雇用統計の非農業部門雇用者増加数が前月比2万人増にとどまるなど、一部の経済指標は米経済減速を示し、米金融政策がハト派的スタンス(景気への配慮を重視し、金融緩和に前向きなスタンス)に変更された状況の中でも、米ドルの緩やかな上昇トレンドが変わっていないことは一見奇妙に思えます。

トランプ米大統領は、強すぎる米ドルを嫌っているという報道もある中、このドルインデックスの上昇トレンド、特に足元での強さはなにを意味しているのでしょうか。

米ドル高はトランプ政策の効果ではない

まず、トランプ政権の貿易政策が効果を発揮することを予見している、という説明があるかもしれません。基本的に貿易黒字国では余剰となった外貨を自国通貨に交換する取引が行われやすくなります。そのため通貨は強くなりやすく、逆に貿易赤字国の通貨は弱くなりやすい傾向があります。

しかし、貿易赤字を是正して黒字国化することはトランプ政権の目標のひとつであると思われますが、現時点で米国の貿易収支黒字国化を織り込んで、ドルが強いと考えることはいくらなんでも無理があると思われます。

むしろ貿易赤字是正のためには、米国の輸出企業にメリットを与えるドル安が望ましく、このドルインデックスの強さは、政策目標の実現にマイナスの影響を与えると解釈することも可能であると思います。

米ドル高の理由は「強いアメリカ」?

次に、各国の金融政策が影響している可能性について考えてみましょう。今年に入り、FRBがハト派的スタンスに変更したことは皆さんがご存じのとおりです。

ここで、FRBの2019年中の政策金利変更に対する投資家の予想を整理したものを見てみましょう(下図)。足元では、8割を超える市場参加者が、2019年に政策金利は変更されないと予想しています。

2018年には、政策金利の四半期に1回の引き上げが継続されたわけですから、政策金利が変更されないだけでも、方向としてはハト派的スタンスへの転換と評価することができるわけです。そしてハト派的スタンスへの転換は、通常は金利が上昇しないためドルの下落要因と考えることが自然です。

また、経済成長が弱いことは資金需要が少ないことを示唆するため、通常はドルが弱含む理由となりそうです。

このように、貿易赤字の状況の中で米景気が減速し、金融政策がハト派的スタンスに転換されることは、基本的にはドルの下落要因であるはずです。しかし、最初にご紹介したとおりドルインデックスは上昇基調です。

もちろん、為替は米ドル以外の他国通貨との相対的な状況によって決定されるものですから、例えば米国以外の国では、米国以上に一層緩和的な金融政策が採用されると考える余地はあります。

しかし、この1年の中で各国の景気や金融政策の見方は大きく変わっています。その中でも、ドルインデックスが上昇基調にあることは、短期的な景気見通しなどに関わらず、米国という国の相対的な強さが続くことを市場が織り込んでいるのかもしれません。

<文:チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行>

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