根本的なことですが、「円高ドル安」とはドルに対して円の価値が相対的に高い状態であり、「円安ドル高」はその逆です。為替市場のキモは、この“相対的”というワードであり、一口に円高ドル安と言っても実は奥が深いといえます。

近年、リスクオフの手段として使われることが多い「円買い」ですが、実際に有効なのでしょうか。直近の為替相場から考えてみたいと思います。


現状は本当に「ドル安」なのか

ドル円レートはひと頃に比べると、明らかに円高ドル安に振れています。しかし、ドルは主要通貨に対しておおむね堅調な値動きとなっており、為替市場を俯瞰的に見た場合、「ドル安」という表現はあまり相応しくないように思えます。

ドルの総合的な価値を示す「ドル指数」は上昇トレンドにある一方、ドル円相場に限定すれば、逆行するように円高が進んでいることがわかります。

ドル指数

要するに、ドルが弱いのではなく、相対的に円が強いのです。「円高ドル高」と呼ぶほうが市場の実態には合っているのかもしれません。もちろん、時には弱いドルに引っ張られて円高が進むケースもあり、その場合は文字通り、「円高ドル安」という表現が合いそうです。

強いドルよりもさらに円が強い状態は、いわゆるリスクオフ時の特徴です。ドルは基軸通貨であり、多くの場合、国際決済はドルを介して行われます。したがって、決済通貨としてのドルに対する一定の需要は常に存在し、特に有事には安心感を求めて世界中でドル保有意欲が高まるのは自然です。

リスクオフの円買いは「美人投票」?

一方、円を保有するメリットは何でしょうか。正直なところ、積極的な理由があるというよりは、資金の一時避難先としての需要が語られることが多いといえます。

避難通貨としての円の適正の高さは、日本が経常黒字国であることや、世界最大の債権国であることが理由とされています。実際に、日本銀行の黒田東彦総裁は5月9日、国会で「海外からの日本円に対する信認は極めて厚いとみえる」と答弁しました。

円が安全資産かどうかは別として、現時点での市場コンセンサスは「リスクオフ=円買い」であることは間違いありません。ところが、円は一時的な避難先という位置づけであるはずですが、利益を得る目的で円を買う向きがあるのが実態です。つまり、リスク回避と言いながら、リスクを取って円を買うのです。

かつて、著名な経済学者であるジョン・メイナード・ケインズは、金融市場における投資家の行動パターンを「美人投票」に例えました。すなわち、美人かどうかの客観的な判断は不要で、「周囲が美人と考えるだろう人」に投票することが投資の極意だそうです。

たとえ、「リスクオフ=円買い」という理論が破綻していても、市場のコンセンサスに乗ることは投資行動的に間違ってはいないといえるのでしょう。