はじめに

ISM、NFP、CPI ‐ これらアルファベット3文字がそれぞれ何の略だかおわかりですか?ISMはInstitute for Supply Management(全米サプライマネジメント協会)、 NFPはNonfarm Payroll(非農業部門雇用者数)、CPIはConsumer Price Index(消費者物価指数)の略です。

実はこれらは(ISMはISM製造業景気指数)、予想を公表しているエコノミストの数が多いトップ3の経済指標です。すなわち米国経済の実態を測るとき、誰もが参照する重要経済指標だということです。今回は、これらの指標から米国景気の先行きを考えます。


力強い数字が発表

先述の重要指標の3つとも、直近では強い数字が発表されました。ISM製造業景気指数は下降トレンドが続いていますが、それでも好不況の境目である50は下回らず、6月の指数は市場の予想を上回りました。

非農業部門の雇用者数の伸びは大きく落ち込んだ前月から急回復を見せ、前月比で20万人を越える増加となりました。そして6月のCPIは、食品とエネルギーを除くコア指数が市場予想を上回る伸びとなりました。前月比0.3%上昇と、昨年1月以来の高い伸びです。

米国の景気拡大はこの7月で戦後最長となる11年目に突入しています。そんな好調な経済の中で物価だけが上がらないと言われてきましたが、ついに物価も上昇の兆しが出始めたのかもしれません。

これらトップ3に次ぐ重要指標は小売売上高です。昨日発表された6月のデータは前月に比べて0.4%増で、4ヵ月連続で増加し、市場予想も上回りました。オンラインなどの無店舗小売りや自動車・関連部品など、幅広い分野が増加し、消費の底堅さを示す内容となりました。

本当に利下げは行われるか?

前回小欄を担当した時、僕は7月の利下げはないものだと思っていました。米国経済の実態はそれほど悪化しておらず、いくら「予防的利下げ」と言っても7月に利下げを決めるには材料不足であろうというのがその根拠でした。

実際に起きてきたことは僕の考えに沿った、早期利下げ不要の材料ばかりです。こんな状況で本当に7月に利下げするのが適当でしょうか?

結論から言えば、FRBは利下げを行うでしょう。ファンダメンタルからは不要でも、市場を満足させるためにはここで利下げが必要です。市場の利下げ織り込み確率が100%に達している状況で、万が一、FRBが利下げを見送れば大パニックになることは明白だからです。それはFRBが何より避けたいシナリオです。

しかし、「市場を満足させるために利下げする」というのは冷静に考えれば本末転倒の感があります。日銀の黒田東彦総裁が常々おっしゃっている通り、一国の金融政策たるものは、マーケットのためにあるものではありません。ところが米国ではそうなのです。米国の金融政策はマーケットのためにあると言っても過言ではありません。

減益なのに株高

今週から米国では4-6月期の決算発表が始まりました。米国株は連日の高値更新が続いてきましたが肝心の企業業績は12四半期ぶりの減益になりそうです。

米中貿易摩擦や昨年までの利上げの影響などもありますが、テクニカル的な要因も少なくありません。前年同期の業績が異常に高く伸びたせいです。言うまでもなくトランプ政権の大型減税の効果です。その効果が剥落してきている今、減税効果があった前年同期との比較では業績の伸びは低くなって当然です。

トランプ減税は企業の税引き後利益を伸ばし、株主の資産価値を押し上げました。その減税効果が剥落する頃に、今度は金融緩和です。結果から見れば、株価を上げるべくして政策が取られているとしか思えません。その善し悪しを論じるのは別の機会に譲るとして、結論は、米国株は上がるべくして上がっているということです。

(文:チーフ・ストラテジスト 広木隆)

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