はじめに

中国では、子どもの失踪や置き去りが多く発生しています。背景にあるのが、かつての一人っ子政策、伝統的なジェンダー観、老後の家族扶養観などです。

失踪には誘拐されたケースもありますが、2人目の子どもをこっそり出産したところ女児であったため、養子や働き手として預けたものの、行方がわからなくなるケースや、最悪の場合は置き去りにするケースなど、さまざまです。

こうした現状を受け、問題解決のためのさまざまなサービスも盛んに開発されています。プラットフォーマーのアリババもその1社。しかし同社の場合、CSR(企業の社会的責任)事業の一環と位置づけています。収益にシビアな中国企業がなぜ、こうしたサービスの開発に力を注いでいるのでしょうか。


3万人超の子どもが親元に帰れず

中国には、失踪した子どもを捜したり、反対に自身の本当の親を探す専門のウェブサイトが複数あります。規模が最も大きいのは「宝貝回家」(宝貝:子どもに対する愛称、回家:家に帰る、の意)です。

このサイトによると、子どもの失踪が最も多かった時期は1980~1990年代で、以降、処罰や取り締まりの強化によって、発生件数は減少しています。しかし、2018年8月時点で、親が子どもの行方を捜しているのは3万5,850件、連れ去りなどで子どもが親を探しているのは3万6,020件にのぼり、いまだ多くの子どもが親元に帰れていません。

同サイトによると、このような失踪は中国全土で起こっているものの、内陸部で連れ去られた子どもが江蘇省、福建省、広東省などの沿岸地域で発見されるケースが多いようです。

ところが、行方が把握できた情況のうち、41.0%は省を超えて子どもが移動しているのに対して、失踪した市内に留まるケースが42.8%、別の市に移動させられるものの同じ省内に留まっているケースも16.2%であることがわかりました。つまり、失踪や誘拐が発生したとしても、近くに留まっているケースが比較的多いということです。

アリババが開発した団円システムとは?

「宝貝回家」のウェブサイトは、失踪した子どもを捜し、情報を引き続き求めたりするうえでは有用です。しかし、子どもがいなくなったと気づいた瞬間、その周囲の多くの人で情報を共有し、すぐに見つけ出すことができたら、より多くの子どもを救うことができるということになります。

たとえばアリババグループは、こうした社会問題に対して自社が持つIT技術を活用しています。中国の公安部と協力し、誘拐が発生した場合の通報・捜索を行う「団円(tuan yuan)」システムを開発しました。

子どもの失踪や誘拐が発生した場合、スマホユーザーの使う頻度が高いアプリを通じて、その情況や子どもの特徴などの情報が発信される仕組みとなっています。発生直後、子どもがいなくなった地点を起点に、1時間以内は半径100キロ圏内、2時間以内だと半径200キロ圏内といった具合に情報が発信され、早期に発見・解決が可能です。

6月に公安部が公表したデータでは、システム稼働3年で、児童の失踪事件3,978件のうち、3,901名が発見されているとしています。発見された事件のうち93%は、情報を受けた周囲のスマホユーザー、失踪した児童の親戚・縁者によるもので、解決は担当部署の公安部よりもむしろ多くの市民の眼によるということが証明されました。

<写真:ロイター/アフロ>

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