はじめに

大丈夫だと思っていても危ない

こうした騙しの引き算は色々なところに使われます。

昨年、オレオレ詐欺に俳優の斎藤洋介さんが引っ掛かってしまい、100万円を渡してしまいました。以前に、テレビの詐欺検証番組で共演した際、番組の演出上、斎藤さんには詐欺にわざとひかかってもらい、詐欺への免疫がついたと思ったのですが、本人いわく「当事者になると、冷静でなくなる」そうで、あまり効果はなかったようです。「知っている」「わかっている」という油断に隙間が生じて、騙されてしまったのかもしれません。

実はここでも、別な引き算を巧みに使われていました。

最初に、偽の息子から「未成年の女性を妊娠させて、慰謝料を支払わなければならない」と電話があり、「500万円が必要だ」と言われました。しかしそれに対して、斎藤さんは「そんな大金、今すぐ用意できるわけない」と言うと、相手は金額を下げていき、100万円になりました。横で話を聞いていた奥さんも、その金額で納得したようで、斎藤さんはそこで折り合いをつけたわけです。

これは、金額を下げるという引き算です。これにより、詐欺師は相手がどの位ならお金を払えるのかを、判断できることになります。また、お金を出す方も「高いより安い方がよい」という心理が働き、お金を払いやすくなります。

「引く」という言葉で、幼い頃、海を見ながら、おじいさんに言われたことを思い出します。
「大きな引き潮がみえたら、逃げろ!津波がくるぞ」と。今にして思えば、あれは、1960年のチリ地震による大津波の教訓だったかもしれませんが、これは詐欺にもあてはまることです。

相手の言葉や話に大きな引き潮が見えたら、間違いなく次に、詐欺の大波がやってきます。飲み込まれたら、ひとたまりもありません。それゆえに、私たちを動揺させるような「引き算」の兆候があったら、画面をすぐに閉じて、電話であれば、即切る。すぐにその場から逃げるようにしてください。冷静さを取り戻すことが、被害に遭わないためには大事なことなのです。

資料 インターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数の推移
   インターネットバンキングに係る不正送金事犯の被害額の推移(出典 警察庁)

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