はじめに

誕生から30年を迎えたスナック菓子「スコーン」が昨年、すんごい進化を遂げていたのをご存知でしょうか。その名も「スゴーン」。こだわり抜いた原材料を使い、本格的な味を追求した、ぜいたくなスコーンです。

発売元の湖池屋がプレミアム路線に舵を切ったのは、スコーンだけではありません。老舗のプライドをかけて発売した「プライドポテト」は、通常のポテトチップスよりも高めの価格設定にもかかわらず、半年足らずで年間の売り上げ目標額を達成。品薄になるほどの大ヒットを記録しました。

湖池屋は、なぜプレミアム路線に舵を切り、それが成功したのでしょうか。理由を探りました。


コンセプトは“すんごいスコーン”

1987年に誕生したロングセラー商品のスコーンは昨年、発売から30周年を迎えました。それを記念して同年7月に発売されたのが、通常よりも素材にこだわり、コスト度外視で作った「スゴーン」です。

開発コンセプトは“すんごいスコーン”。伊勢エビなどをぜいたくに使用した海老味噌風味の「海老まるごと」と、炭火焼の香ばしさや苦味を再現した「鶏炭火焼」という2つの味が販売されてきました。

そして、今月8日から新しく加わったのが「スゴーン 和牛すき焼き」です。砂糖と醤油でシンプルに味付けられた和牛に京都産九条ねぎの風味が香ります。「こだわったのは、すき焼きの割り下の味よりも、お肉の風味です」と話すのは、開発を手がけた湖池屋の森田哲史ブランドマネージャーです。

すき焼きの味をより一層楽しめる方法として、同社はちょっと変わった食べ方を提案しています。電子レンジで30秒ほど温めたスゴーンに生卵をつけて食べると、本物のすき焼きのような深い味わいを楽しめるといいます。

「スゴーンはお菓子ですが、お菓子の領域を超えるほど本格的な味を追求しています。料理に近しいものとして、驚きと楽しさを感じていただきたいと思っています」(広報課・小幡和哉さん)

5ヵ月で大ヒットの基準を突破

スゴーンとともに、同社がポテトチップスのプレミアムシリーズとして打ち出しているのが現在、全8種類を展開している「プライドポテト」です。

プライドポテトを含めたプレミアムシリーズは、同サイズの他のスナック菓子よりも価格を高めに設定。実勢価格は30~40円高く販売されています。

その結果、プライドポテトが本格的に出回り始めた昨年春以降、湖池屋のスナック菓子1点当たりの平均売価は、市場で圧倒的なシェアを持つカルビーよりも10円前後高めの水準で推移するようになりました(下図)。

にもかかわらず、プライドポテトは一時、品薄状態が起きるほど好調な売れ行きを記録。通常、初年度で20億円を突破すると大ヒットといわれるスナック菓子市場において、わずか5ヵ月でこの売上額を達成したのです。

そもそも、なぜ同社はプレミアム路線を強化させたのでしょうか。背景には「少子高齢化やスナック菓子の低価格化など、複合的な要因が重なり、市場がなかなか大きくならない」(小幡さん)という厳しい現状がありました。

そうした中、同社では2016年9月にキリンビバレッジ前社長の佐藤章氏が社長に就任。同年10月にはコーポレートブランドを統合し、ロゴも一新しました。そんな新生・湖池屋が世の中に自社の価値を問う商品として送り出したのが、プライドポテトでした。

女性が買っても恥ずかしくない外観

プライドポテトが目指したのは「おいしいものを知っている40~50代の大人が食べても、おいしいと感じてもらえるポテトチップス」(小幡さん)。好調の理由は、味だけではなく、パッケージデザインにもあるようです。

通常、ポテトチップスのパッケージで多く用いられるのは「ピロー包装」といわれる枕のような形状です。しかし、プライドポテトでは「人間は自立するモノに対して、人格やキャラクターを感じやすい」という佐藤社長のアイデアで、自立するパッケージを採用しました。

「今では、一目見てわかってもらえるような当社を象徴するパッケージになっています」と小幡さんは話します。

自立したパッケージとともに他のスナック菓子と一線を画したのが、2017年にグッドデザイン賞を受賞した、売り場で映えるスタイリッシュなデザインです。今までのスナック菓子でよく見られた、原色を使い、シズル感を重要視するパッケージセオリーを打ち破るものでした。

意識したのは、女性が手にとっても恥ずかしくないデザインです。その理由を小幡さんは次のように話します。

「消費トレンドのカギを握るのは女性です。そこにいかに入り込んでいけるか、それにかかっています。開発当初から女性に手に取ってもらえるような商品でなければ、マーケットは動かないと考えていました」

好調を維持したまま、来月には販売2年目に突入するプライドポテト。売り上げが前年同月と比較されるこれからが、真価を問われる局面になりそうです。

(文:編集部 土屋舞)

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