はじめに
ポケモンGOは儲けにつながらない?
ポケモンGOが日本でリリースされて一週間以上が経過。当初の熱狂が徐々におちついてビジネスのポイントが見えてきました。任天堂はこれから儲かっていくのか?ポケモノミクスと言われる経済効果で誰が潤うのか?そういった疑問を整理してみたいと思います。ポケモノミクスで気になることはまず任天堂株の乱高下。日本でのリリース直前の7月19日に32,700円と久しぶりの高値をつけた任天堂は、その後、大きく下落してこの原稿を書いている時点では21,000円近辺まで下がっています。
株価下落の理由は、ブームが沈静化していく中で「どうやらポケモンGOの利益は任天堂にはほとんど入らないらしい」という情報が広まったからです。
ポケモンGOのゲーム自体はGoogle子会社のナイアンティックが権利を持っています。ポケモンキャラクターのライセンス収入は、任天堂の子会社の株式会社ポケモンに入ってくるのですが、出資比率は32%、短期的な利益という意味では任天堂には今回は儲けが落ちないというのがポケモノミクス議論の出発点です。
任天堂は次回作以降、さらに収益を増やす可能性が証明された
ところが今後のポケモノミクスに関して言えば、状況は違います。実は今回の成功で新しい3つのビジネスのポイントが明らかになりました。それを順に見ていくと、任天堂にも他のゲーム会社にも新たにたくさんの収益機会が生まれたことがわかります。まず一つ目のポイントは、強いキャラを持っていれば一気にスマホゲームの頂点になれるということ。
これまでパズドラやモンストなど、スマホの人気ゲームは独自世界観のものが主力だったのですが、ポケモン級のキャラ力があれば、その人気をひっくり返すことができることが今回ポケモンGOが一気にブームになったことで証明されました。
むしろ昨今懸念される「ポケモンGOは冷めるのも早い」という問題点はポケモンではなくゲームのエンジン側の課題です。
ということは、次回からは任天堂もナイアンティックに依存せずに、自社でポケモンやマリオのゲームを製作すれば、次回からはもっと息が長いゲームを提供することができるようになりますし、結果としてスマホゲームの有力コンテンツの利益を自社で全部吸い上げる形に持っていけるわけです。
一方でコンテンツホルダーの立場が強い権利者は任天堂と同じことが狙えます。妖怪ウォッチ、プリキュア、ワンピースなどスタンプラリー系のイベントで一定数の子どもないしは若者を動員できるコンテンツホルダーは、今後、ゲーム会社とのタイアップでポケモンGOと同様のビジネスに参入できることが、今回のポケモンGOの成功で証明されたわけです。
ポケモンGOはリアルに消費者を動かす
さて、二つ目のポイントは、実はこちらの方が大切なのですが、ポケモノミクスによって消費者を特定の場所に集めることが可能になったことで、ゲームが広告ビジネスとしての力を持つようになりました。今回ポケモンGOは日本マクドナルドと提携をして、マクドナルド店舗をポケストップとして活用することにしました。これはポケモンバトルをしたい若者や子どもたちが自然にマクドナルドに集まってくることを意味します。
実は飲食店や小売店、ショッピングモールなどはこのように消費者を集めるための広告に、ものすごく多くの広告費を使っています。概算でいえば1兆円以上のお金をチラシやテレビの宣伝、フリーペーパーやWebのプロモーションサイトに費やしているのです。
それらの集客予算をポケモンGOのようなソーシャルゲームが奪っていける可能性が今回証明されました。集客広告費を払うという観点では従来の広告よりもソーシャルゲームの方が効果的に顧客を集めてくれると企業が考えるきっかけになったのです。
さまざまなコンテンツホルダーがポケモン同様に収益を増やすことになる
しかもこの方法は、さまざまな形で展開が可能です。ポケモンGOを例にとれば、マクドナルド以外にも、イオン、イトーヨーカドー、ミスタードーナツ、ガストなど同時にたくさんの店舗と提携することも可能です。そのうえで今週末、マクドナルドに現れるモンスターはこれ、ヨーカドーはこれという形で、モンスターの種類を変えていけばいいのです。
このやり方は、他のゲームでも応用が可能です。たとえばパズドラでガチャをひくためのアイテムである魔法石、これを無料で配れば一定数のパズドラユーザを集客できます。
普通の居酒屋がパズドラから魔法石を仕入れて、来店客に配るとか、同じことを書店やヘアサロン、分譲マンションのモデルルームでも集客手段に使うことができるのです。
ということはポケモンGOの登場で、チラシ、テレビ、フリーパーパーやウェブなど集客広告の世界は大きな業界地図の変動が起こる可能性があります。ここが近未来のポケモノミクスの二つめのポイントです。
ポケモノミクスが世界に広がる
さて、三つ目にポケモノミクスには大きなマクロビジネスの可能性があります。そしてそれは日本経済の救世主になるかもしれないのです。そもそもポケモノミクスと騒ぎになったきっかけは、それまでゲームというと室内にとどまっていたユーザがポケモンGOでいっせいに屋外に飛び出したこと。屋外に出るということはそれだけで、飲食店や交通費など直接的な消費から、ついでの買い物のような間接的なものまで経済効果が増えることになります。
そこで今後、世界中の国で経済を活性化するためにポケモンGOのように屋外にユーザを誘導するゲームが増えることが予想されます。
その手段として一つ目のポイントのように日本のコンテンツが使われたらどうなるでしょう?世界中で日本のキャラクターゲームが経済政策のために使われるようになるのです。ポケモンGOをきっかけに、日本のキャラビジネスがグローバルで活躍する未来が開けたのです。
ポケモンGOはポケモノミクスの最初の一歩にすぎなかった。そう思う日がもうすぐやってくるかもしれません。