はじめに

株式市場は、1月下旬までトランプ政権が成立させた米国の法人減税や、好調な企業業績を背景に上昇が続き、日経平均株価も1月23日に2万4,129円の高値を付けるなど、日米ともに堅調に推移していました。

しかし、2月に入ると、株式市場は急落に見舞われました。まずはこの背景から説明します。


株式市場が2月前半に急落した背景

トランプ政権の減税策や財政拡大策には財源面の裏付けがないため、米国で財政赤字が拡大しインフレ傾向が強まるとの見方から、米国の長期金利はこれまでの低下基調から上昇基調に変わり始めています。当初は、株式市場への影響が出ていなかったものの、節目と見られていた2.75%を超えた1月末辺りから、徐々に米国株価の重荷になり始めたのです。

さらに2月に入ると、「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数が急上昇しました。VIX指数を空売りすることで利益を上げるファンドの償還条項に着目した一部の投資家が、強制的な買い戻しをさせるための仕掛け的な買いを行ったことがきっかけです。これが、想像以上のVIX指数の急上昇を招き、さらにVIX指数で株式のリスクを判断するファンドの株式売りを誘発しました。

これに伴い、株式市場は日米ともに急落。日経平均も2月6日には1,000円を超える値下がりとなるなど、不安定な状況となりました。

異例だった個人投資家の売買動向

この急落に対して、個人投資家はどのように対応したのでしょうか。

東京証券取引所が発表している「投資部門別売買動向」のデータによると、2月5日の週は個人が7,466億円の買い越しと、過去最大規模の買い越し額となっています(下図)。中身をさらに詳しく見ていくと、個人は現物取引で5,443億円の買い越し、信用取引でも2,023億円の買い越しです。

一般的に個人投資家の多くは、値下がりすると買い、値上がりすると売る「逆張り投資」を好みますが、今回のような急落の場合、信用取引では損失拡大を防ぐために売り越しとなることが多く、今回の急落は異例の展開です。なぜ、今回は信用取引でも買い越しとなったのでしょうか。

この謎を解くデータが松井証券店内にあります。当社では、日々「信用取引(買)の評価損益率」というデータを算出しています。これは、松井証券店内で信用取引を行っているお客様が、全体としてどの程度の損益状況になっているのかを示す数値です。

この数値は一般的に0%~-20%で推移しますが、今回の急落が始める前の2月1日時点では-1.107%と極めて良好な状態となっていました。その後、株価の急落とともに悪化していきましたが、日経平均株価が1,000円を超える下落をした2月6日でも-9.229%にとどまっています(下図)。

つまり、スタート地点が極めて良好だったので、その後の急落局面でも損失拡大を防ぐための売りを出す必要がなく、下がったところで押し目買いを入れる余裕があったのです。

今後は米国の長期金利に注意

2月中旬以降は、株価の動きは引き続き不安定ながらも、徐々に値を戻しています。VIX指数の急騰をきっかけとした売り圧力は収まったものの、その前から株式市場の上値を抑えるきっかけとなっていた、米国の長期金利が引き続き上昇しているのです。

また、通常は米国で金利が上昇すると、金利面で魅力の高まった米国に投資資金が流れるため円安ドル高になりますが、今回は円高ドル安となっています。これは、2月14日に発表された米国の1月の消費者物価指数が前月比で0.5%増となるなど、米国でインフレ懸念が高まっているためです。

トランプ政権は減税に加えて公共投資の拡大も打ち出しており、景気が過熱して現状程度の金利上昇ではインフレがカバーしきれない、と金融市場は判断しているのです。

前回のVIX指数急上昇に伴う海外投資家の売りは、個人投資家の積極的な買いでなんとか耐えしのぎましたが、前述した信用評価損益率は2月20日時点で-6.418%と、回復したものの2月頭よりは悪化した状態です。米国で長期金利がさらに上昇し、再び海外投資家が大規模に売ってきた場合には、個人投資家の買いで支えられるかはわかりません。

米国経済の過熱感を測るうえでも、今後は米国の長期金利の動向に注意が必要な局面といえるでしょう。

(文:松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎)

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