金融庁は3月8日、これまでの立ち入り調査を踏まえた仮想通貨交換業者に対する処分を発表。まだ正式に登録が済んでいない「みなし業者」5社のうち、2社に1ヵ月の業務停止命令、3社に業務改善命令のほか、登録済みの業者2社に対しても業務改善命令を出すなど、大方の予想よりも厳しいものになりました。

今回の処分をつぶさに見てみると、金融庁の仮想通貨業界立て直しに対する「本気度」がうかがわれます。こうした処分を受けて、今後、仮想通貨業界や関連サービスはどう変わるのでしょうか。


金融庁の迅速かつ厳格な対応

未登録のみなし業者であるコインチェックが不正アクセスを受け、580億円もの大量の仮想通貨が不正に流出した事件が発生したのが1月26日でした。

金融庁では、それからわずか1ヵ月半の間に、コインチェック に対する業務改善命令(1月29日)、全業者に対するシステム管理態勢の自己点検と報告の要請(1月31日)、コインチェックに対する立ち入り検査(2月2日)、全みなし業者を含む少なくとも17社に対する立ち入り検査(2月14日)など、矢継ぎ早に対応を行ってきました。

そして、先週の7業者の一斉処分です。今回の処分は、そのスピード対応に金融庁の「本気度」が現れています。

また、その内容をみると、かなり厳しいものということができます。

事業者による利用者保護やマネーロンダリング、テロ資金対策の態勢整備が想定した以上にずさんであるとして、非常に厳格なスタンスで処分に臨んでいます。さらに、立ち入り検査がまだ継続中であることを表明しており、追加的な処分の可能性さえ感じさせる発表となっています。

交換業者はこの先どうなるのか

これに対して、ビットステーション、ビットエクスプレス、来夢のみなし業者3社が登録申請の取り下げを申し出ています。まさに、金融庁の「本気度」が改めて明確になり、業界全体が震え上がっているように見受けられます。

今後は、多くの事業者で態勢整備が不十分であることが明らかになったマネーロンダリングやテロ資金対策、利用者保護、システム障害対応、利用者に対する情報開示などについては、すべての登録済み業者・みなし業者において、目線を高めて態勢整備に努めることが求められます。

また、コインチェック事件の前に100社以上が登録申請または申請準備中といわれていた仮想通貨業界への参入予備軍に対しても、今後、登録時の審査の厳格化が予想されます。

このため、登録までの審査期間がこれまで想定されていた以上に長期化する可能性があるほか、参入のハードルが高まったことで、仮想通貨交換業者としての登録を断念する企業も出てくるものと考えられます。

カギ握る「金融業者としての自覚」

こうした金融庁の迅速かつ厳格な処分の裏に込められたメッセージは、どんなことでしょうか。私には「金融業者としての自覚を持つこと」を促しているように感じられます。

現在、登録済みの業者や未登録ながら仮想通貨の取引所を運営しているみなし業者は、IT系のルーツを持つ業者が中心となっています。昨年春に改正資金決済法が施行される前から仮想通貨の取引所を運営していた業者は、ほとんどが既存の金融業者としてのルーツを持たない、IT系のルーツを持つ業者だったからです。

金融庁としては、こうした事業者が「みなし業者」として営業を継続することを認める一方、一定期間内に正式な審査を受け、改めて登録業者となるよう要請しました。その過程で、IT系のルーツを持つ事業者も「金融業者としての自覚」を持ち、それに相応しい態勢を整備して登録を申請することが期待されていたと考えられます。

ところが、今回のコインチェックの事件を受けて検査してみると、金融業者としての自覚が感じられないずさんな態勢で取引所の営業をしている実態が明らかになりました。金融庁としては、迅速で厳格な処分により、改めて「金融業者としての自覚なきものは去れ!」という強いメッセージを出したものとみることができます。

制度の見直しは業界の取り組みと両輪

コインチェック事件の後でみられた大きな動きの1つとして、金融庁から自主規制団体(認定資金決済事業者協会)としての認定を目指す業界団体の新設が発表されました。

これまで、認定を受けた自主規制団体が存在しなかったために、業界全体としてセキュリティ標準や顧客保護のあり方などが共有されず、業界全体としての態勢整備の水準の向上が進まなかったという指摘があります。

自主規制団体の新設により、コインチェック事件や今回の行政処分につながったような事案がすべて防止できるものではないと思います。しかし、法制度の趣旨や監督官庁の意図を業界全体として共有することにより、金融業者としての自覚を持った業界へと脱皮を図っていく第一歩になるものと期待されます。

今回の一連の処分の発表と同時に、金融庁は「仮想通貨交換業等に関する研究会」の設置を発表しました。今後は、この研究会において、内部管理態勢や利用者保護、証拠金取引、ICO(仮想通貨の新規発行による資金調達)など、諸問題についての制度的な対応が検討されることになっています。

ただ、こうした制度的な議論が進んでいく間にも、自主規制団体をはじめとする仮想通貨業界の正常化に向けた取り組みの大幅な進展が期待されます。仮想通貨やFintechのように、技術進歩などによる変化のスピードが速い業界においては、制度対応だけでは不十分なことが多く、自主規制団体など、事業者側の真摯な取り組みが不可欠だからです。

仮想通貨は将来の金融サービスの姿を変える大きな可能性を秘めているといわれます。今回の一連の事件や処分が、仮想通貨事業者の自覚を促し、より安心・安全で便利な金融サービスの提供につながっていけば、決して無駄なコストではなかったと思います。金融業の本質は、人々の信用をいかに獲得し、維持していくかに掛かっているのですから。