はじめに

前回の「精子の質」の保証が甘い、現状の不妊治療では、「精子学」の第一人者で不妊治療を専門とする黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長の黒田優佳子医師に、今の不妊治療の問題点やリスクについて伺いました。

今回は、その改善策として現在黒田さんが実施している正常な精子の選別法について、また不妊治療の今後の展望などについてお話をお聞きします。


顕微授精で開ける穴は意外と大きい?

顕微授精は、問題のある異常精子でも授精させてしまうことができる。だからこそ、その実施には、「精子の品質が卵子に刺していいレベルなのか」を事前に確認することが大前提——。以上が前回までのお話でした。これに加え、黒田さんは「顕微授精は、精子の問題以外でも慎重になるべき技術です」と指摘します。

「顕微授精で卵子に精子を注入する針は外径約10ミクロン。この数字だけを聞くと、非常に細いというイメージがあります。でも、実際の卵子と針の比率は“野球ボールに鉛筆を刺して穴を開ける”のと同じなのです。つまり、実は結構大きい穴が開くのです」

他にも、黒田さんはこんな懸念を示します。「胚培養士や医師の中には、大きな穴を開けるということに対して『細胞膜はすぐ閉じるから大丈夫。顕微授精は安全です』と言う方もいます。しかし、穴が開くことが生まれてくる子どもに全く影響がないという保証が科学的に確立しているわけではなく、その詳細は不明です。顕微授精の急速な普及で、短期間に顕微授精によりたくさんの赤ちゃんが生まれていますが、歴史も浅いことを踏まえ、生まれたお子さんを長期間にわたり、追跡調査していく必要があると思います」

これらを考え合わせた場合、精子が自力で卵子に侵入する体外受精の方が、強制的にヒトの手で授精させる顕微授精より安全な治療ということは言えそうです。また、さらに黒田さんによれば、黒田さんのクリニックで治療前の精子精密検査をすると、ほとんどの精子は卵子に侵入する機能の不備が判明することがよくあると言います。

「すでに卵子が採取されている段階で顕微授精を中止するという選択枝は取りづらいと思います。しかし、“手術”である採卵と比べて、マスターベーションによる精液採取は低リスク、低コスト。そのため、私は最初にご主人の精子機能を精密検査し、その精子の質を見極めた上で採卵の可否を決定しています」

また、黒田さんは、精子の質を見極めた上で技術的な努力で可能であれば、まずは顕微授精を回避することに徹し、どうしても顕微授精をせざるを得ない場合には精子の品質管理を徹底。穿刺可能な精子が得られない場合は、「あらゆる危険性を考慮して、治療の中断も選択枝とし、ご夫婦と細かく相談する」という治療戦略を取っていると言います。

「それが、結果として生まれてくる子どもにとって安全であり、患者ご夫婦にとっては時間的にもコスト面からも無駄のない治療になります。何か問題が起きてからでは遅い。この点に関して、胚培養士や医師たち医療従事者も一日も早く気が付いていただければと思います」

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