はじめに

食品や外食などでの値上げが目につく反面、スーパーでは値下げの動きが広がっているようです。日本経済新聞によると、足元で6割超の品目が1年前より値下がりし、値下げされた品目の割合は約4年ぶりの大きさになったとのことです。

人件費や原材料価格の上昇を背景にメーカーなどが値上げを打ち出したものの、消費者の節約意識は高く、その板挟みとなったスーパーは集客のために結局、値下げをせざるをえなかったというのが実情ではないでしょうか。

実際、アンケート調査によると(明治安田生命による4月調査)、節約を意識している人は全体の8割にも上っており、モノやサービスの価格動向に敏感になっていることがわかります。

しかし、その中でも順調に値上げをしている企業もあります。値上げを実現させるには、一体何が必要なのでしょうか?


消費者の抵抗が強い中、値上げをするには?

消費者の抵抗が強いと予想される中、そもそも企業が値上げを打ち出してきている背景はなんでしょうか。多くは、原燃料価格の高騰、人件費の上昇やそれに伴う物流費の上昇などに背中を押され、そのコストアップ分を製品・サービス価格に転嫁しようとしているためです。

しかし、企業側がコストアップを理由に値上げを打ち出しても、必ずしもその価格で売れるわけではありません。値上げ実現のカギは、消費者が価格上昇を受け入れてでも購入しようという製品やサービスを提供しているかどうかにあるといえます。

消費者が価格上昇を受け入れるケースの1つとして、その製品やサービスをほしいという人がたくさんいるため、価格が高くても買おうという状況、すなわち供給に対して需要が強いといった状況が挙げられます。

宅配便大手のヤマト運輸を例に見てみましょう。宅配便単価は長らく下落が続いていましたが、2017年度に基本運賃の値上げが順調に進み、単価は上昇に転じました。2018年度は値上げが本格化し、単価はさらに1割上昇すると見込まれます。

背景には、ネット通販の普及による荷物の取り扱いの増加があります。個人宅の不在に伴う再配達の増加、配達員不足に伴う人件費の増加などをもたらしましたが、需要が急激に伸びていることから、最終的にユーザーは値上げを受け入れざるをえなかったと考えられます。2018年度はヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配便単価が揃って上昇するとみられます。

次に、トイレットペーパーの例をみてみましょう。王子ネピアや大王製紙など主要メーカーは5月以降、取引先の小売りに10%以上の値上げ方針を表明しました。生活必需品でもあるトイレットペーパーの需要は高いと思われますが、値上げ浸透は進んでいないようです。

トイレットペーパーはメーカー数も多く、ブランド力を発揮しにくいことから、値上げすると価格の安いメーカー品に需要(消費者)が流れてしまいがちです。また、トイレットペーパーの需要は景気動向に左右されないという意味では底堅いものの、基本的には人口に比例することから、少子高齢化が進む日本国内で今後の成長は難しいでしょう。

2017年にも一部大手製紙メーカーが10%以上の値上げを目指しましたが、小売りの抵抗でほとんど実現せずに終わりました。今年も需要と供給の強さにそれほど変化がないとみられるだけに、値上げは厳しい状況が想定されます。

企業の強さや成長性を「値上げ力」で判断

消費者が価格上昇を受け入れる2つ目のケースは、「ブランド力」です。似たような製品やサービスは他の企業でも提供しているが、その企業の製品やサービスでないと嫌だと消費者がこだわるだけのブランド力がある場合は値上げが浸透します。

値上げを表明しただけでなく、値上げを実現させている企業をみていくと、需要増の追い風を受けている企業、ブランド力のある企業が浮かび上がってきます(下表)。

株式投資をする場合には、「良い銘柄を探す」ことが基本です。中長期的な観点から「良い」、すなわち「株価が上昇する」と期待できる銘柄とは、業績拡大の期待できる企業です。業績が中長期的にも拡大すると見込まれる企業とは、成長分野に属する企業、競争力のある企業、ブランド力のある企業などでしょう。

上表にある海外企業をみると、価格上昇という点でもその強さが一段と顕著に表れています。日本国内の例を見るまでもなく、企業が価格を上昇させることの難しさは明らかです。にもかかわらず、上表で取り上げた企業はその困難を乗り越えるだけの強さを持っている、投資対象として魅力的な企業群といえるのではないでしょうか。

企業の持つ「値上げ力」に着目して、企業の強さや成長性を見てみるのはいかがでしょうか。値段が上がっているモノやサービスがあったら、高くて困ったなと思うのではなく、それを提供してくれている企業はどこだろうと考えると、そこに投資のチャンスが隠れているかもしれません。

(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)

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