はじめに
女性の不妊治療については、メディアでも様々な経験談が取り上げられるようになりました。しかし、「男性不妊」については、治療法を含めて、まだまだ情報や知識が乏しい現状があります。男性不妊の当事者であるご夫婦2組に経験を伺いました。
最初は手術の必要なしと診断された
<ケース1:Aさん夫妻>
現在夫42歳、妻42歳。約10年に及ぶ不妊治療で、体外受精で2女(1歳と3歳)を授かる。妻27歳から人工授精を開始、夫35歳で精索静脈瘤(*注1)の手術。妻37歳で長女を妊娠。
注1:陰嚢部分にこぶ(静脈の拡張)ができ、血流が悪くなることで精子の運動率や濃度に悪影響を与える。一般男性の15%にみられ、乏精子症といった男性不妊の原因の約40%を占める。
――夫の精索静脈瘤が判明したきっかけは?
妻:すぐに子供が欲しかったのですが、26歳の時に結婚して半年過ぎても兆候がなかったので、夫婦両方とも検査してもらいました。それで、夫の精索静脈瘤が判明しました。でも、その時は手術が必要とまでは言われなかったんです。私の方も多少、多嚢胞症気味だけど問題ないという感じで。
夫:普通の泌尿器科で調べたのですが、「精子の運動率も数も数値は低いけれど、まぁ、大丈夫でしょう」と。
――判明した時の気持ちはどうでしたか?
夫:その日はやはり落ち込みました。でも、深刻にはならなかったですね。わかってからは、トランクスにしたり、冷やすようにしたり。双方の両親や友人にも話して、実母や知人が勧めてくれた漢方薬局に夫婦で通って服用したり。
妻:わかった時は姑の方がショックを受けていたように思います。「じゃあ、うちが原因なの?」みたいな。でも、原因の一つではあるけれど、全てではなないから、あまり、気にしないようにと伝えました。他の人から漏れ伝わったり、子供のことについてタブーのようになって、あちらが何も聞けない状態を作るのも良くないと思い、自分たちからオープンにしました。
午後半休をとり、腹腔鏡で日帰り手術
――手術を決めた理由は何だったのでしょうか?
妻:最初の検査後にすぐ人工授精を始めましたが、4年間で計8回試しても受精しない。病院を変えて、体外受精も顕微受精も試しましたが、ダメでした。それで詳細の診断を受けたところ、受精障害と診断され、不育症についても調べましたが、原因がはっきりしなくて……。
これといった治療法がないので、ひたすら回数をこなすループに陥っていました。その間に、繋留流産も1度経験しました。
でも、漢方を飲んでいた時、漢方自体は私たちには効果がなく止めてしまったのですが、漢方医から、精子の質も受精に影響が大きく、静脈瘤の手術をすれば、運動率や濃度が上がり、受精しやすくなる可能性と専門の大学病院の医師について聞いて、これは手術するべきなんじゃないかと考えるようになったんです。
夫:医師にさらに詳しいことを一緒に聞きに行ったのですが、結果、その場で妻が「やります」と即断しました(笑)。それに、よくわかっていなかったのですが、静脈瘤は放っておくと重症化するんですね。最初の診断では片方だけにあると言われたのですが、大学病院では両方にあるとわかりました。でも、手術すれば、片側の程度も改善する。それで、片側だけ手術することにしました。
――どんな手術を受けたのですか?
夫:開腹と腹腔鏡の2つの方法があり(*注2)、多少、腹腔鏡の費用は高いのですが、日帰りでできます。鼠径部に1ヶ所穴を開けるだけで回復も早いので、腹腔鏡にしました。手術費用は約20万円くらいでした。
(*注2)静脈瘤ができている血管を縛り、逆流を止め、新たな別の血管の生成を促す。新たな血管ができるまでには、術後半年ほどかかる。
――手術に抵抗感はなかったですか? 予後は?
夫:正直、「え、手術まで?」と一瞬たじろぎましたが、妻がそれまでに本当に頑張ってくれていたし、何より自分が子供を強く望んでいたので、僕にできることはしたいと思いました。
手術日は、会社は午後半休をとり、手術後は痛み止めをもらって迎えに来てもらい、夜には帰宅。痛みはそんなになかったですね。歩く時にちょっとツレるくらい。翌日も休まず、会社に行けました。ただ、痛みを感じたという人もいるので、これは人によると思います。