はじめに

9月18日配信記事で取り上げた、印刷通販業のラクスル。同社が上場したのは今年の5月31日でした。そして10月18日には、同じく印刷通販業を営むプリントネットという会社が新規上場しました。

ここに来て上場が相次いでいる、この「印刷通販」という業態。紙媒体の需要が減っていることを受け、印刷業界全体では市場が縮小傾向にありますが、こと印刷通販に限っていえば、2012年から2018年までの6年間の平均では、年10%超の成長率だそうです。

成熟産業で異色の成長業態を展開するラクスルとプリントネットを、もう少しくわしく分析してみたいと思います。


さまざまな面で対照的な両社

両社の属性は対照的です。ラクスルの本社所在地は東京都品川区ですが、プリントネットは鹿児島市です。上場に備え、東京にも本社を設けましたが、本拠地は現在も鹿児島です。

創業年もだいぶ違います。プリントネットは創業から50年経っていますが、ラクスルはまだ10年も経っていません。社長もラクスルは高学歴のスーパーエリートで若干34歳ですが、プリントネットの社長は53歳。叩き上げの営業マンです。

株価も比較してみましょう。10月31日終値はプリントネットが1,840円で、ラクスルが2,826円と、1.5倍以上の差があります。一方で、上場時の公募価格は100円違い。初値はプリントネットのほうが高かったわけですが、その後の伸び方が違いました。

ラクスルは6月14日に2018年7月期の第3四半期決算を発表して以降、株価が急伸。上場前2期が営業赤字でしたので、会社予想の営業黒字がちゃんと実現するかどうかに着目していた投資家が、黒字化を確信したことによる評価アップが主因でしょう。

次に時価総額ですが、こちらは8倍近い差です。ラクスルの発行済み株式総数はプリントネットの5倍強あるからです。

ラクスルは上場以前の段階で増資を繰り返し、外部の投資家から積極的に資金を調達。結果として、発行済み株式総数は上場前の4年間で193倍に増えています。これに対し、プリントネットも上場前に増資はしていますが、分割で増えた分を除けば、上場前4年間では11%くらいしか増えていません。

同業のようで同業ではない

それでは、業績はどうでしょうか。ラクスルは売上高の伸び率が大きいですが、プリントネットは着実です。利益水準はプリントネットに軍配が上がります。一方、自己資本比率はラクスルのほうが上です。

その原因は、両社がやっていることの違いにあります。ラクスルは自社で印刷工場を持つことはせず、受けた注文を全国にある印刷会社に外注しているのに対し、プリントネットは一部で外注も使いますが、基本は自前の印刷工場で印刷しています。

つまり、ラクスルはプラットフォームの運営会社であるのに対し、プリントネットは昔ながらの印刷会社が業務の一部として通販を行っているのです。ですから、ラクスルにとってはプリントネットも印刷業務の発注先の1社です。

実際、プリントネットの主要売上先はラクスルで、2017年10月期の売上高68億円強のうち、3割弱にあたる19.6億円はラクスルからの受注分です。1社への依存度が高まると、業績はその会社の動向に左右されやすくなるので、プリントネットとしてはラクスル以外の通販業者からの受注も増やしたいのが本音でしょう。

配当開始の可能性ではプリントネットに軍配

ウェブ上で「印刷通販」について検索をかけてみると、ものすごい数の業者がヒットします。この業界は、プリントパックとグラフィックという先行2大業者で市場シェアの5割強を占有していて、この2社を追う3位がラクスル、4位がプリントネットで、市場シェアは8.5%程度なのだそうです。

この中でラクスルが特異な立場にあるのは、同社が競合他社を「使う」側にいる点でしょう。したがって、成長の可能性という点ではラクスルに軍配が上がります。とはいえ、当分の間、成長投資におカネがかかりますから、しばらく利益は安定しないでしょう。

一方、プリントネットは50年の業歴を有しており、ジャパンカラーという品質認証を3工場で取得していることが強みだそうです。品質は維持したままコストを徹底的に削って、ビジネスモデルを改良しただけですから、利益は安定しています。

プリントネットをはじめとした“ラクスルに使われる側”の業者にとっては、ラクスルを通さず直接受注したほうが利幅は広がります。その意味では、ラクスルも競合他社との受注競争に勝ちぬかなければなりません。

両社とも今のところ配当開始時期は明言していませんが、ラクスルはおそらく当分の間、難しそうなのに対し、プリントネットは比較的早く配当を開始してくれるのではないでしょうか

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