はじめに
心の奥が切り裂かれるように痛かった
友人たちが帰ったあと、彼女は「紹介くらいしてくれてもいいのに」と彼に不満を漏らしました。すると彼はマユさんをぎゅっと抱きしめ、「ちょっと照れくさくてさ、みんなにはそれとなく大事な人だって言っておいたから」と言ったのです。
「それならまあ、いいかと私も機嫌を直したんですが、友だちに話したら『それっていいように使われているだけじゃない?』と。そもそもそのときの食材費は彼が払ってくれたんでしょと言う友人がいて、どきっとしました。実は2万円近くかかっているんですよね、食材に。彼が恥をかかないように食材も吟味したし、5人分ですから」
それはおかしい、と友人たち全員に言われ、マユさんはふと気づきました。そういえば、彼の家で料理を作っても、いつも自分が食材を買っていることに。
「私は実家暮らしだから、ふたりになるためには彼の家に行くしかない。いつも泊めてもらっているから食材くらいと思っていたけど、友人に言わせると、彼はおいしいものを作ってもらっているのだから食材費くらい出してもいいんじゃないか、それにわざわざ電車賃使って食材買って、重いのをもってきてさらに作ってくれているんだから。泊めるのに費用なんてかかってないでしょと。なんだか目から鱗が落ちたような気がしました」
それ以来、彼女は以前ほど食費にお金をかけなくなりました。すると数ヶ月後、彼が「マユの作るローストビーフが食べたい」と言いだしたのです。
「肉が高いの。食材費、少しカンパしてくれない? と思い切って言ってみたんです。そうしたら彼、聞こえないふりをしていました。なんだか急に何もかもイヤになってしまって、黙って彼の部屋を出ました」
追いかけてくるはずだと思っていましたが、彼は追いかけてきませんでした。そしてそのまま、SNSのメッセージで、「マユがそんなにセコい女だと思わなかった。オレのこと好きだって言ったじゃないか」と怒りをぶつけてきたのです。
「信じられなかった。私が大好きだった彼の正体って、これなのかと愕然としました。私がお金を出して尽くしている間はやさしいけど、ちょっとお金を出してと言った瞬間、態度ががらりと変わってしまった」