はじめに
大きな壁に果敢に挑む
突然このレースに参戦してきたのが式場壮吉さん、そして彼が乗るポルシェ904でした。最高出力180馬力、車重はわずか650キロ、その最高速は260キロという性能でした。一方のプリンス・スカイラインGTは、チューニングによって最高出力はようやく150馬力まで達成していましたが、その最高速は国産最高速とは言え時速170キロだったそうです。
突然現れた、まさに異次元のスーパーカーだった式場さんが乗るポルシェ904
さらにポルシェより30センチも背が高く、まるでダックスフンドのようなスタイルで車重は1トンを超えていたのですから誰もが「勝ち目はない」と考えていたそうです。「昨日まであれほどたくましく見えていたスカイラインが一気に貧弱に見えるから不思議なもんだね」と砂子さんはその衝撃を話してくれました。
でも本戦レースは始まります。ポルシェは予選中にクラッシュし、大きなダメージを負いながらも、徹夜の修復作業を経て本戦に挑んで来ました。そしてレースがスタートすると予選3位だった式場さんが一気に加速し、第1コーナーまでにトップに立ち、それを予選1位のカーナンバー41、生沢徹さんが追い、続いて予選2位だったカーナンバー39の砂子さんが、追従するという展開となったそうです。
スタート直後。ポルシェ904を先頭に第1コーナーになだれ込んでいく
「驚くほど安定した走りを見せるポルシェを我々のスカイラインGTは、なんとも激しいドリフト走行で追うという展開になった」といいます。
そして迎えた7周目。遅いクルマに手こずる式場さんを生沢さんが、その遅い車共々、2台をまとめてヘアピン手前で抜き去り、そのままトップに躍り出た状態でポルシェ904を従え、ホームストレートに現れました。当然、ポルシェには勝てないだろうと思っていたメインスタンドの観客は総立ちとなり、大歓声を送ります。3位を走っていた砂子さんはその様子をずっと後ろから見ていました。
「あの会場の異様な盛り上がりは走りながらでも感じることが出来たよ」だったそうです。
これが世に言うところの“スカイライン伝説誕生の瞬間”です。この時、砂子さんは「さすが生沢! これでプリンスは勝てる!」と思ったそうです。そして砂子さん自身も「レーサーであるから、黙ってみていたわけでは無い。このままポルシェを追いかけ、生沢に続いて抜き去ってやろう」とさえ思って、どんどん追い上げていったそうです。