はじめに
男に何を求めているのか自分でもわからない
水商売は楽しかったっものの、彼女自身に何か目的があったわけではありません。お店をもちたいとも思わなかったし、ナンバーワンになりたかったわけでもなかったそうです。
「もともとあまり先のことを考えていないんですよね。その日暮らしでいいやというタイプ」
店に来たお客さんと店外デートをしては、すぐに貢いでしまうクセはなかなか直らなかった。
「この人に似合うと思うと、買ってあげたくなるんですよ。でも中にはひどい男もいてね、私とデートしているとき、『これほしい』とヴィトンのバッグの前から動かなくなっちゃって。いい男だったし好きだったから買いましたけど、どうやらすぐ売ったらしいと共通の知り合いから聞きました。こちらは誠意をもってつきあっているのに……」
すぐに惚れ、すぐに何か買ってしまうのは、彼女自身の心の中に「ものをあげれば去っていかない」という気持ちがあるのかと疑ってしまいがちですが、彼女はお金と同様、男性にもそれほど執着はなかったといいます。
「別に男の人に何かを求めているわけではなかったから……」
堅実に結婚できると思ったのに…
それでも20代後半のころ、そのころ勤めていた店のすぐ近くで働いていた男性と仲良くなり、結婚を考えたことがあるそうです。
「彼がどうこうというより、結婚がしたかったんですよね、そのときは。彼は料理屋で働く板前さんで、自分の店をもちたいという希望があった。だったらふたりで店をやろうと。私の父がある程度お金を出してくれるということになったんです」
彼女より5歳年上だった彼は、涙を流して喜んでくれました。そんな彼を見て、彼女は「喜んでくれる彼を見るのがうれしかった」そう。
「ところがある日、彼が手付けとして一千万円いると言い出して。父から不動産屋さんに送金してもらうと言ったら、『オレの力で借りたように不動産屋に思ってもらいたいんだ』と。それもそうかと思って、父に話して送金してもらったんです。そして私から彼に手渡して。ちょうどその日は一緒に行かれなかったんですが、もののみごとに彼に持ち逃げされました」
あれはショックだったと彼女は少し遠くを見つめています。でも、せっぱつまった感じはありません。彼の件はもちろん警察に被害届を出しましたが、結局は行方がわからないままです。
「父には怒られましたね。おまえがぼんやりしているからだ、と。ただ、私は自分が結婚して彼とお店をやるという、生まれて初めての夢をもったんですよね。その夢が踏みにじられたことがショックでした」