はじめに

現代フランス人に清酒が合う理由

このパリ産清酒アヤムの誕生を、現代のパリ市民たちの消費傾向に照らし合わせると、今のパリの流行が見えてきます。

1つ目は、フランスで「ビオ」と呼ばれるオーガニック製品への強い支持です。ビオを選ぶ人たちは、ローカルプロダクト(地産地消)であることを意識しており、この傾向は 「アジャンス・ビオ」(オーガニック農業を支援する公共団体)のデータからもわかります。オーガニック製品全体の売り上げは、9年間で278%増加。ビオを選ぶ際の基準としても「ローカルプロダクトであること」「フランス産であること」がトップ5にランクインします。

パリで造る「日本酒」

もう1つは、ナチュラルワインブームに代表される自然派嗜好です。オーガニックブドウを使ったオーガニックワインとはまた別に、酸化防止剤を添加しないナチュラルワインを選ぶ人たちがフランスでは増えており、パリの若者の集まるエリアのワインバーは、ナチュラルワインに特化しているところが非常に目立ちます。

「日本酒はワインと違って、酸化防止剤を使いません。酸化防止剤アレルギーの人でも、安心して飲むことができます。また、ヴィーガンのニーズにも応えることができます。ワインは濾過の過程で少量の卵白を使うので、ヴィーガンは無濾過ワインを選んでいますが、日本酒はそもそもの最初からヴィーガンです」(ジュレスさん)

米、麹、水、というごくシンプルな素材を原料とする清酒は、現代のフランスの人々のニーズに応えるナチュラルなアルコールです。

「2019年11月に瓶詰めした150本は、弊店1店舗だけの取り扱いで、翌1月までに宣伝もせずにはけました。日本酒は一般的なフランス人にとって、まだまだ未知の存在です。飲んだことがなく、手にしたこともないという人が多い現状での150本です。理由は、ワイン的なドライな味わいであることや、自然派であること、ローカルプロダクトであることなどの要因が絡み合った結果だと思います」(同)

自然派、ローカル……パリで清酒を造るジュレスさんの活動は、単に「パリで醸された」というだけでなく、フランスにおける現代のニーズに応えるものなのです。

Keiko Sumino-Leblanc / 加藤亨延

この記事の感想を教えてください。