はじめに
開発競争は世界で過熱
こうしたEV用全固体電池については、日本ではトヨタ、海外では、韓国サムスンSDI、米国では先日ナスダックに上場したクォンタムスケープなどが開発しています。
トヨタは3年前に「2020年代前半に全固体電池を使ったEVを投入する」と発表し、開発は着々と進んでいます。昨年1月の時点で、リチウム、ゲルマニウム、リン、硫黄を材料にした、電解液の3倍の導電性を持つ固体電解質を発見しており、現在、量産技術の開発中です。
韓国のサムスンSDIも「2020年中に素材開発は終わった」としており、今後試作品の製作を始め、2027年以降に量産する方針です。そして、クォンタムスコープは、負極材料に黒鉛系ではなく、リチウム金属を使います。
リチウム金属は黒鉛系材料に比べて7倍から8倍のエネルギー密度があるので、コンパクトで高容量、そして、ハイパワーな電池を作れます。しかし、リチウム金属は、電解液と反応し表面にデンドライトと呼ばれる樹枝状の結晶が析出しやすく危険なので、今のリチウム二次電池では実用化されませんでした。
これが全固体電池では、電解液を使わないので結晶ができにくくなり、仮にショートしても燃えにくくなります。加えて、クォンタムスコープ社では、独自に開発したセラミック製の絶縁体を使うとしており、安全性はかなり高いと思われます。
2035年には1.5兆円を上回る市場規模に
このほかにも日立造船や三井金属、そして住友電工などが優れた固体電解質を開発してます。EVに全固体電池が本格的に使われるようになるのは早くて2020年代後半ですが、2035年には1.5兆円を上回る市場規模になると予想されています。
各社の収益に寄与するのはまだ先ですが、夢があります。2021年の注目テーマとして繰り返し関連銘柄が物色されそうです。
なお、村田製作所やTDKなどが作るウェアラブル端末向け全固体電池はすでに市場が立ち上がりましたが、車載向けは市場の大きさが違います。全固体電池がゲームチェンジャーになるかどうか、固唾を呑んで見守りたいと思います。
<文:投資調査部 斎藤和嘉>