はじめに

渋谷駅から恵比寿方面に徒歩3分、雑居ビルの1階に一風変わった新しいカフェが誕生しました。電源やWi-Fiが完備された環境で、豆から挽いたコーヒーをなんと1杯50円で飲むことができるのです。

なぜ、そんな低価格なコーヒーだけで、都心の駅近でカフェが経営できるのでしょうか。謎めいたカフェの秘密を探りました。


採算度外視の価格設定

渋谷の路地裏を歩いていると、昼間は開いていないはずのワインバルに「コーヒー50円」と書かれた黄色いのぼりがはためいていました。気になったので中に入ってみると、そこには「当店はセルフサービスとなっております」と書かれたボードとコーヒーメーカーが置いてあります。

実はここは、12月1日にオープンした「スペイシーコーヒー」という新しい業態のカフェです。この日は渋谷と新宿で合計6店舗が同時にオープンしました。

どの店舗も駅から徒歩5分以内の好立地。店内もお洒落なインテリアに囲まれています。しかも、提供されるコーヒーは、アメリカ西海岸を中心に店舗を展開する有名店のコーヒー豆を挽いた本格派。それが1杯50円(税込み)という破格の値段で楽しめます。

最近はコンビニやファストフード店でも1杯100円でコーヒーが飲めるようになりました。スペイシーコーヒーはそれをさらに下回る価格で提供しているわけですが、採算は取れるのでしょうか。

運営元であるスペイシーの広報担当・林織奈さんは「ほぼ原価で提供しているので、正直、利益は出ていません」と話します。では、なぜ原価スレスレの価格で本格派コーヒーを提供しているのでしょうか。

飲食店の空き時間をフル活用

実は、スペイシーの主力事業は貸し会議室の予約サイト運営。この予約サイトに無料の会員登録をすると、スペイシーコーヒーで本来なら1時間の利用で1杯100円するコーヒーが、50円で楽しめるようになる仕組みです。

“50円”という価格でインパクトを出し、スペイシーというブランドを知ってもらい、予約サイトの利用者を増やすことが目的だと林さんは話します。そのため、利益が上がらなくても、会社のプロモーションとしてカフェを運営しているといいます。

とはいえ、いくら採算度外視といっても、都心の駅近で低価格のコーヒーを提供できるのには理由がありました。実は、運営方法も少し変わっているのです。

「夕方以降にオープンするバルなどの飲食店の空間を活用しています。昼間の空き時間を月単位で買い上げて、カフェとして運営しているのです」(林さん)

カフェは平日のみの営業で、朝9時頃から飲食店のディナータイムが始まる17時頃までオープンしています。飲食店の都合によって、営業時間が変更になったり、休業になる場合もあるといいます。

空き時間に場所を提供するだけで収入になり、カフェの来店者にお店を知ってもらえばディナータイムの集客にもつながるということで、店舗を貸し出すオーナーからも好評だと林さんは話します。

電話も食事の持ち込みもOK

カフェが混雑するのは、お昼時の13時から14時頃。利用者は20~30代が多く、ビジネスパーソンがパソコンを持ち込んで仕事をするケースが多いそうです。「仕事の電話も気兼ねなく話していただいて問題ありません」と林さん。

店ではスナックなどの軽食を購入できますが、食事を持ち込むことも可能です。駅近の立地に加えてコーヒーの破格の安さからか、リピーターが多いのも特徴だといいます。利用者からは「本当に50円でいいんですか」とよく聞かれるそうです。

「カフェを利用する方の中には、ただコーヒーを飲みたいからだけではなく、電源とWi-Fiを使いたいという理由で利用されている方も多いと思います。コワーキングスペースといったかしこまった場所ではなく、馴染みのある“カフェ”として、手軽に利用していただければと思います」(林さん)

大手コーヒーチェーンで飲もうと思うと、1杯で300円近くすることはザラにあります。仕事の合間に「ちょっと時間ができたから」とカフェで一息つくだけでも、チリも積もれば山となり、1年で見れば相当な出費になります。1杯50円のコーヒーを賢く利用すれば、大きな節約につながるのは間違いなさそうです。

(文:編集部 土屋舞)

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