はじめに

ハンドモデルが手に1億円の保険をかけた──そんな話をテレビやネットで見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。

興味を引かれるインパクトのある話題ですが、「本当にそんなことができるの?」「私たちが加入している一般的な保険とは何が違うの?」と疑問に思う方も多いはずです。

この記事では、国内で実際に契約できる保険の仕組みを整理しながら、「手に1億円」という事例を入り口に、私たちが本当に備えるべき現実的なリスクとその対策について考えていきましょう。


日本には「身体パーツ保険」は存在しない

海外には、手や脚など身体の特定部位を対象とした「身体パーツ保険」が存在します。しかし、日本では残念ながらそのような保険は販売されていません。

その理由は、保険商品を販売するには金融庁の認可が必要であり、とくに身体の一部だけに高額な保険金を設定する仕組みは「モラルリスク」が大きいとされ、認可が下りないためです。モラルリスクとは、本来の目的以外で利用されたり、必要以上の補償を狙った行動を誘発してしまったりするリスクを意味します。

つまり、海外で話題になるような身体パーツ保険は、日本ではそもそも加入できない仕組みになっているのです。

怪我に対する補償は傷害保険

では、国内で怪我によって手に傷が残り、ハンドモデルとして活動ができなくなってしまった、もしくは活動できない期間ができてしまった場合、保険金は支払われないのかというと、そうではありません。

損害保険会社が取り扱う傷害保険には、怪我を補償する「入通院保険金」や「後遺障害保険金」があります。これは、事故により入通院が必要になった場合や、後遺障害が残った場合に保険金が支払われる仕組みで、自動車保険や旅行保険などにも広く付帯されています。

万が一、事故で手首から先を失ってしまった場合は「1上肢を手関節以上で失ったもの」として後遺障害5級に該当し、支払割合はおおよそ59%です。契約している保険金額が1,000万円であれば、実際に受け取れるのは590万円。もし1億円を受け取ろうとするなら、逆算して約1億7,000万円もの契約が必要になります。

しかし、ここで大きな壁があります。国内の傷害保険では、死亡や後遺障害の保険金額には引受の上限があり、モラルリスクの観点から高くても5,000万円程度に制限されているのが一般的です。つまり、理論上は計算できても、それ以上の契約は事実上不可能なのです。

一方、生命保険には「高度障害保険金」というものがありますが、支払条件は「1上肢を手関節以上で失い、かつ1下肢を足関節以上で失った場合、またはその機能を永久に失った場合」と定められています。そのため片手の喪失だけでは支払いの対象外となります。

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