はじめに
近年、日本の地方を中心に増加する遊休不動産の問題は、税負担や維持管理上のコスト、地域活性化の停滞を招き、多面的な課題として社会的注目を浴びています。そのなかで、外国人による山林や空き地の取得が話題となり「日本の国土が外国資本に取り込まれてしまうのではないか」という懸念が一部で強まっています。
ここで、先に述べておくと、筆者は外国人が日本国内の土地を取得すること自体について、国籍の違いによる差別や、否定的な意見は持っていません。そのため、外国人が日本の土地を購入すること自体を一概に批判するのは適切ではないと考えています。かといって、これら現状を全面的に肯定・推進的な意見も持っておらず、特に遊休不動産を通してこの現状を見たとき、現状を正しく理解し、外国人取得の実態や利点・懸念点を整理していく重要性を強く感じています。
そこでこの記事では、これらの実態とともに、国の対策や今後の展開予測について解説します。
遊休不動産の増加背景と社会的影響
日本では、少子高齢化や都市集中などの人口動態変化、経済構造の影響により、利用されずに放置される遊休不動産が急増しています。特に山林や空き家、使われない空き地は「負動産」として税負担や景観悪化、防災上のリスク増大をもたらし、地域の経済的・社会的活力を削ぐ要因となっています。多層化する所有形態や相続の複雑化により、管理不全が続いている状況も、この問題の背景にあります。
外国人取得の現状と背景

日本における外国人による土地取得は、世界的に見ても特異な状況にあります。多くの国では外国人の土地購入に各種の制限が設けられている一方で、日本では明治時代以来、外国人に対して国内居住者とほぼ同様の土地権利が認められてきました。これは法律上においても特別な許可や届出を必要としないため、外国人投資家や居住者は自由に不動産を取得し、所有することが可能です。
この自由度の高さは、経済の国際化と外資誘致の観点から日本が長年継続してきた政策の一環でもあります。人口減少や地方の遊休不動産増加に対し、国内市場の活性化や不動産の有効活用を促すことも期待されています。そのため、外国人による日本の山林や別荘地、遊休不動産の取得事例は年々増えつつあり、都市部やリゾート地域はもちろん、近年は地方部の山林等の遊休不動産にも広がりを見せています。
しかし、この増加傾向の実態把握には注意が必要です。農林水産省が2025年に公表した統計によれば、農地に関する外国人法人や非居住外国人による取得面積は年間数百ヘクタールと限定的であり、全国の農地総面積のごく一部に過ぎません。取得の大半は国内居住の外国人や日本法人を通じており、投資目的のみならず地元との関係を築きながらの利用が多いことが統計からも伺えます。また林野庁の調査からは、外国資本が保有する森林も数千ヘクタール規模にとどまっており、地域資源の大部分が外国資本に委ねられているわけではありません。
(農林水産省プレスリリース「令和6年に外国法人等により取得された農地面積」(2025年9月16日発表))
ただし、統計上は小規模でも、戦略的に重要な資源地域や安全保障上の観点から注視される地域への外国人取得は問題視され、社会的にも大きな関心が寄せられています。特に自衛隊基地周辺や国境離島、主要な水源林などの土地取得については透明性の確保と行政の監視強化が求められており、「重要土地等調査法」などの法令によって一定の届出義務や調査・対応の体制整備が進んでいます。
また、日本の土地市場における外国人取得は、直接的な売買だけでなく、法人形態の活用や所有者名義の多層化、匿名性を利用した複雑な所有関係によって、実態が把握しづらいケースも少なくありません。これにより、地域コミュニティから透明性の欠如や投機的行動に対する不安が生まれやすい環境も存在しています。
一方で、外国人の土地取得は地域経済に資金をもたらし、遊休不動産の有効活用や地元産業の活性化に貢献する側面もあります。実際に地域創生を目指したプロジェクトに外国資本が参加し、民泊や観光業、環境保護活動等多彩な形で地域に良い影響を与えている例も増えています。したがって、単純に「外国人が買うこと=脅威」という見方ではなく、個々のケースや地域の実情、取得形態を踏まえた慎重な評価が重要です。
近年はこうした現状を踏まえ、政府は段階的に外国人の土地取得に関する規制を強化しつつあります。農地法改正により短期在留者による農地取得は禁止されるなど明確な制限が設けられ、重要土地利用規制法では戦略的資源や防衛関連地域の土地利用情報の把握・報告体制が整備されています。これに加え、地方自治体も地域の特性に応じた条例や監視体制を構築し、地域資源の保全と利用の両立を目指した政策を実施しています。
このように、日本の外国人土地取得の現状は、一方で国際的な投資自由化政策や地域経済活性化の恩恵を受けつつ、他方で安全保障や地域コミュニティの懸念、資源管理の課題を抱えています。今後は、透明性の向上と規制強化、地域参加型の資源管理システムの構築が、適正な外国人取得の在り方を模索するうえで鍵となるでしょう。