はじめに
iDeCoを始めようと考えたとき、多くの人が「投資は怖い」と不安に感じるでしょう。長期間にわたって積み立てる制度だからこそ、「選び方を間違えたらどうしよう」「減ったら取り返せないのでは」と考えると、一歩が重くなるのも無理はありません。
そんな中、ここ最近は「金利が上昇している」というニュースを耳にする機会が増えました。長く低金利が続いてきた日本で、預金金利がようやく動き始めたことで、「iDeCoも定期預金を選んでおけば安全に増やせるのでは?」と感じている人も多いのではないでしょうか。
たしかに、足元の定期預金の金利は、数年前と比べると大きく改善しています。しかし、「金利が上がったから定期預金で安心」と判断してしまう前に、知っておいてほしい視点があります。
この記事では、金利上昇局面においてiDeCoで定期預金を選ぶことは本当に“あり”なのか、その判断で見落としがちなポイントについて、FPの立場から解説します。
定期預金はたしかに堅実。だが、「堅実=最適」ではない。
定期預金は値動きがなく、元本割れの心配がないという点で非常に魅力的です。
たとえば、月2万円を30年間積み立てれば、元本は720万円。
これを定期預金(年0.3%)で運用すれば、利息は約63万円。
合計で783万円です。
グラフで見ると右肩上がり、しかもぶれることのない滑らかな線になります。これを見ると、「これだけ増えるなら、危険を冒して投資信託を選ばなくてもいいのでは?」と思うのは当然です。
ただ、iDeCoには商品に関係なくかかる“固定コスト”があります。加入時の2,829円、毎月171円。30年間で約6.4万円です。
利息63万円のうち6万円以上がコストとして差し引かれることになります。とはいえ、ここまでならまだ冷静に比較できます。
問題は、この数字だけでは測れない“資産形成の本質”が別に存在する点です。
本当に怖いのは「数字が減ること」ではなく、「価値が減ること」
私たちはつい、通帳の数字ばかりを見て資産を判断しがちです。しかし、お金は 「数字が増える=価値が増える」 とは限りません。
日常の買い物を思い出してください。数年前より、食料品も日用品もじわじわと値上がりしています。同じ1,000円でも買える量が減っている、これが物価上昇(インフレ)です。
2025年10月の消費者物価指数は前年比+3.0%。政府目標の2%を超える状態が続いています。
この物価上昇率が30年間続いたとすれば、いま100万円のものが、30年後には約243万円になることを意味します。つまり、30年後の100万円は 実質的に41万円の価値しか持たないのです。
定期預金で783万円を受け取ったとしても、実質322万円ほどの価値しか持たない計算になります。数字は増えているのに、買えるものは減っている。これが“実質金利がマイナス”の時代に起きることです。この視点を持っているかどうかで、定期預金の見え方は大きく変わります。