今年1年の株式市場の始まりを告げる大発会。その取引開始の1時間ほど前、1月4日の朝7時50分から、東京・丸の内の高層ビルの一室で、ある記者会見が開かれました。

会見のお題は、SMBC日興証券とSMBCフレンド証券の合併について。同じ三井住友フィナンシャルグループを親会社に持つ2つの証券会社が合併し、この日から営業を始めるのに先立ち、経営トップが報道陣の質問に答えました。

国内3大証券の一角は、兄弟会社との統合によって何がどう変わるのでしょうか。会見でのやり取りから、合併後の経営戦略に迫ります。


預かり資産額は大和証券に肉薄

「当社とフレンドは1月1日に合併し、本日、営業初日を迎えました。システムがうまく稼働するか心配でしたが、今のところ、順調に推移しており、良いスタートが切れました」。会見の冒頭、SMBC日興証券の清水喜彦社長は、そう言って頬を緩めました。

1月4日に旧フレンド証券の新たな“乗組員”とともに船出した、新生・日興証券。顧客からの預かり資産は57.8兆円、口座数は約330万口座まで拡大したほか、従業員数は1万人を突破。店舗数も148店に増加しました。

証券会社にとって、預かり資産はさまざまな事業で収益を上げていくうえでの源泉となります。そのため、銀行における預金残高と同様、預かり資産の残高が業界内におけるポジションを表す指標となっています。

今回の合併によって拡大した日興の預かり資産57.8兆円という額は、大和証券の57.9兆円に肉薄する規模。国内トップの野村証券(115.2兆円)には遠く及びませんが、旧日興単独の53.6兆円からはステップアップした形です(預かり資産額はいずれも2017年9月末時点)。

目指すのは“圧倒的な2番手”

今回の合併に伴う効果について報道陣から聞かれた清水社長は、収益面での言及を避けました。証券会社の収益は、時々の株価水準によって大きく変動するためです。その一方で言及したのが「証券業界において“圧倒的な2番手”になる」という目標。そのための指標となるのが、さきほどから話題にしてきた「預かり資産」です。

預かり資産の中で投資信託の残高が増えれば、その分だけ証券会社には管理手数料が入ってきます。また、顧客が株や債券を売買する際、他の証券会社や銀行に預けてあるお金で取引するよりも、自社の口座に入っている資金で売買してもらうほうがハードルは低くなります。

さまざまなビジネスのベースとなる預かり資産を増やすことで、収益性も含めた総合力で野村に近づく。ただ、短期間では追いつけないので、まずは2020年3月末までに国内でナンバー1が狙える地位を確立する――。それが清水社長の描く、新生・日興の青写真です。

合併をテコにリテールを拡充

では、どうやってその地位を確立するのでしょうか。核となるのが、今回の合併をテコにしたリテール(個人向け)営業の人員増強です。

旧フレンドの営業店舗は61店ありましたが、そのうち37店が旧日興の店舗とエリアが重なっていました。これらの店舗を統合するほか、本社機能でも重複していた部分を解消することで、約850人の営業員をリテールに充当します。

2017年10月末時点で、旧日興のリテール営業員は約2,700人。これに旧フレンドの人員が加わることで、リテール営業の人員は3割増となります。ここからさらに増員を続け、2019年4月には3,900人体制を構築したい考えです。

こうした人員増強の先に何があるのでしょうか。旧日興の営業員は1人当たり650口座を担当してきました。その中でも、大きな金額を動かすのは350口座ほどになります。とはいえ、650口座でも350口座でも、1人の営業員がカバーするには多すぎる口座数です。

「1人1人の顧客と向き合うには、銀行だと100~120口座、証券でも200口座くらいが理想的」(清水社長)。営業員を3900人まで増やすことができれば、1人当たりの担当口座数は200強まで適正化できる見通し。これがフレンドとの統合の大きな狙いです。

質も伴うリテール増強になるか

ただ、合併の目的は単なる数合わせだけではありません。複数の地場証券が集まって誕生した旧フレンドは、小回りの利く株式営業を強みとしてきました。一方、旧日興では投資信託や債券など取扱商品の幅が広がる中で、相対的に価格変動の激しい株式の営業に対して及び腰になる若手社員が増えている現状がありました。

「株の売買がどういうものか理解して、顧客に説明し、最終的な決断を顧客にしてもらう。そのためのノウハウを旧フレンドの社員から日興の若手にしっかりと教えてもらいたい」(清水社長)

日興がこうした対応を進めている背景にあるのが、金融庁が進めている「顧客本位の業務運営」という大方針です。

かつての証券業界では、顧客に株式や投資信託を短期間で売買させるなど、顧客の利益よりも証券会社の手数料収入を優先させるような営業手法がまかり通っていました。こうした状況を改め、証券会社は顧客の立場に立った金融サービスを提供していくべき、というのが金融庁の掲げる方針です。

清水社長も「顧客のことをよく知って、よく調べて、顧客が求めているものを想像し、それに合った商品を創造する。それが顧客本位の業務の本髄」と語ります。その延長線上にあるのが、今回のフレンドとの統合をテコにした営業体制の拡充というわけです。

今年7月で創業100周年を迎える日興証券。次の100年に向けて順調なスタートを切れるかどうかは、単純な数合わせではない、質を伴うリテール部門の強化にかかっています。

(文:編集部 猪澤顕明)