はじめに
1人用火鍋の需要に火が付いた
空巣青年たちは決して貧乏というわけではありません。都市部のインターネット、金融などの成長産業で働く割合が高い彼らの給料は、平均から比べればかなりの高水準で、自分の自由になる時間も豊富にあります。
そうなれば当然、企業側も彼らをターゲットにした店舗や商品、サービスを考え出します。
たとえば、上海市内に複数の店舗を展開する「斉民市集」という有機野菜を使った火鍋店は、大きな鍋を数人で囲むのが普通だった火鍋を、おひとりさま用に提供しています。訪れた店舗では、中央に1人用の席が並ぶ長机が用意されていたほか、カウンター席も多数配置されていました。
「斉民市集」の平均客単価は3,500~4,000円程度
中国では従来、1人で外食というと、ハンバーガーなどのファストフードか麺類といった価格は安いが栄養に乏しく、空腹を満たすためだけにパッと食べて帰るものばかりでした。しかし近年では、この火鍋店のように、おしゃれで体に良い代わりに多少単価が高い、といった新しい業態も次第に増えてきています。
カラオケやジムにも1人用が出現
ここ数年で、外売(ワイマイ)と呼ばれる出前サービスが爆発的に成長しました。その背景にも、1人でレストランに入ることに抵抗がある、家でリラックスして食べたい、そもそもレストランでは1人で食べられるメニューが少ない……といったニーズがあるといわれています。
食事だけではありません。電話ボックスのような形をした1人用カラオケボックスも、今年のヒット商品です。
まるで電話ボックスのような1人用カラオケボックス
ほかにも、1人用のトレーニングジムも盛り上がりの兆しを見せています。北京、上海から始まり、2017年10月には中国政府が運営するファンドから7,500万元(約13億円)の資金調達に成功した覓跑と、北京を中心に同じく200ヵ所で展開する達卡運動が合併を発表。規格の統一などで競争力を増し、2018年2月の旧正月までに全国10都市での展開を目指すとしています。
それ以外にも、1人で暮らすライフスタイルをつづった陶立夏氏によるエッセイ「練習一箇人(おひとりさま練習)」、ネット動画「一人食」のヒットなど、「1人」を核にした商品やサービスは、今や1つのカテゴリーといえるほど増えてきています。
「つながり」に次の商機?
このように、1人という現状をターゲットにしたサービスはすでに多くあります。これを踏まえて、その次には「つながり」をキーワードにしたビジネスが流行するとみられます。
広い国土で転職やライフステージの変化に伴う移動が多い中国人は、実のところ、会える距離に親しい友人が少ない場合が多いという話をよく聞きます。また、高校や大学での部活・サークル活動なども活発ではないため、趣味の友人が少なく、友人の層・種類が日本に比べても少ないと感じます。
彼らも普段は職場の同僚などとなんとなく一緒にいるのですが、実はよくよく聞いてみると、そこまで心を開いているわけではない、と感じることも少なくありません。この5,000万人の孤独な若者を結びつけることができれば、大きなビジネスチャンスになるのではないでしょうか。
1つの解決方法は、オンラインでのつながりです。たとえば、さきほど紹介した1人用カラオケは自分の歌唱データをSNSで公開し、お互いにコメントをつけることで、同じ歌手や曲が好きな人同士が交流できる仕組みになっています。すべてのコトが携帯電話から始まり、ネットで広がるといっても過言ではない現代の中国には、とても適した方法といえるでしょう。
リアルな出会いがお金を生むか
ただ、今後もっと伸びると思われるのは、リアルでの出会いの場をつくるビジネスです。
男女の出会いについては、昔から多くのサービスが提供されています。しかし、共通の趣味について語り合ったり、習い事をしたり、バンドやスポーツのチームを組むといったことを仲立ちするサービスは、まだ多くはありません。
ネット上での出会いや交流を一概に否定するものではありません。が、実際に会い、一緒に何かを経験し、語り合うことから生まれるのは、より得がたい人間関係であることは間違いありません。であれば、そこに喜んでお金を払う人もいるのではないでしょうか。
外国で暮らす孤独な空巣青年の1人としては、そういったものがあるのなら、ぜひ参加して友達を増やしたいと思うのですが……。