はじめに

2020年の東京オリンピックに向けて、政府がさまざまな規制緩和を進めています。すでに先行している“爆買い”向けの免税手続きの簡素化や、民泊の規制緩和に続いて、1月4日からは無資格ガイドが解禁されました。

この規制緩和によって、どのようなビジネスチャンスが生まれるのでしょうか。これから先の新しい事業機会の全体像を探ってみます。


外国人向けガイドの条件が緩和

これまでは「通訳案内士」の資格がなければ有料で行えなかった、外国人に対する観光ガイド。しかし、1月4日に改正通訳案内士法が施行されたことで、外国語を話せる人がバイト感覚で観光ガイドを行うことができるようになりました。

もちろん、これまでもボランティアであれば観光ガイドをすることは可能でした。知り合いから聞いた話ですが、学生時代、英語力をトレーニングするために、彼は浅草でボランティアの観光ガイドを買って出ていたそうです。

具体的には、休日に雷門の辺りをうろつきながら「語学勉強中の学生なので観光ガイドをさせてください」と売り込み、外国人観光客を案内するのです。そうすることで英語のトレーニングもできますし、お礼に食事をご馳走してもらうこともあったそうです。

厳密に言えば、食事をご馳走してもらった段階で報酬を受け取ったことになるのかもしれませんが、いずれにしても、これまではここが法律上できることの上限でした。

増加する訪日観光旅行客に商機あり

通訳案内士は昨年段階で約2万2,000人登録されているそうです。その中で実際に稼働している人は6割程度とみられています。京都や東京など観光客が多い場所では有資格のガイドが活躍してきたのですが、問題もありました。

1つはアジア系の言語が話せるガイドの人数が少ないこと。通訳案内士の登録言語は大多数が英語です。中国語ガイドも増えてはいるのですが、増加する観光客数には追いついていません。ましてや、インドネシア人、タイ人、ベトナム人など日本人から見ればマイナーな言語を話す国からやってくる人にまでは手が回りません。

もう1つの問題は、地方の登録人数が少ないこと。特に、世界遺産に指定されて急に観光客が増えた場所、つまり熊野や石見銀山、富岡製糸場といった観光地では、観光客の相手ができる通訳の数は極端に不足しています。

2017年の訪日観光客数は11月までの段階で2,600万人を超え、すでに過去最高を更新しています。東京オリンピックが開催される2020年には、4,000万人の外国人観光客が日本を訪れると想定されています。

観光ガイドの数が絶対的に不足しているのは明らか。そのため、無資格のガイドにも通訳と観光案内が可能になるような規制緩和が行われたのです。これを受けて、さまざまな企業がこの領域に参入を始めています。

注目されるAirbnbの新サービス

大手旅行会社のエイチ・アイ・エスなどはその典型でしょう。ただ、意外に伸びるのではないかと見られているのが、民泊仲介で世界最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)です。

同社は2016年に「トリップ」という新機能を公開しています。宿泊というプラットフォーム中心だったところから、旅行客の滞在中のニーズについてもサービスを広げようというものです。

このトリップには「プレイス」と「体験」という2つのサービスが設定されています。プレイスは「人気のあるレストランの紹介」のような情報提供を、体験のほうは現地のエキスパートが用意したガイドツアーを、それぞれ想定しています。

これまで日本では、エアビーアンドビーによるトリップは法律上、「無資格ガイドについては禁止事項」に抵触していました。これが1月4日を境に、合法的に提供できることになったわけです。

新たなシェアビジネスを発見せよ

エアビーアンドビーで宿を探して日本に来る観光客は、同じサイトの中で「おすすめのラーメン店を体験してみよう」「酒造所で利き酒を楽しんでみよう」「夜の六本木でパリピ体験をしてみよう」といった“体験”を予約できるようになりました。同社では早速、現地ガイドの勧誘と審査に力を入れ、新しい事業機会を広げようと考えているもようです。

実はこのトリップが発表された当初、「これでホテルに続いて、旅行会社がエアビーアンドビーにつぶされる」と話題になったものでした。旅行会社の主力商品の1つであるツアービジネスに、誰でもが参入できるようになるからです。

エアビーアンドビーは「空いている部屋」を、配車サービスのウーバーは「空いている車」をシェアすることで成長してきました。今度は「空いている時間を使ってガイドで儲けたい」というニーズをカバーするプラットフォームが登場したわけです。

無資格ガイドの場合、報酬額は自分で決められます。たとえば1時間3,000円程度で設定すれば、2割をエアビーアンドビーなどのプラットフォーム側が徴収し、残りを自分の取り分にすることができます。ですから、語学力にさえ自信があれば、誰もが気楽にガイドをバイトにすることができるのです。

そして、ビジネスの観点では「次に来るシェアビジネスは何か」というポイントも重要です。2020年に向けて急拡大する訪日観光客需要。次に不足する資源は何で、それを事業機会にするためにはどうすればいいのか。知恵をしぼった競争が加速しそうです。

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