はじめに

“稼げるフルーツ”が生む好循環

下図は、主なフルーツの粗収益から経費を差し引いた生産者の年間所得を示したものです。最新データは2007年と少し前のものですが、メロンやスイカといった“儲かる”イメージのあるフルーツを大きく引き離しています。

イチゴは基本的にビニールハウスで栽培するフルーツで、温度を安定的に保つために暖房をつけ、美しく育てるためのケアも必要になります。それだけに栽培の腕前が結果に現れやすく、味や見た目が良ければ、かなりの高値で売れるのです。

ブランドイチゴになると売値が1粒1,000円というものもあり、贈答用では値段が高いものほど好まれます。また、イチゴは老若男女を問わず好まれ、クリスマスを中心に強力なシーズン需要があります。

難しいけれど良品を作る腕前をつけることで稼げるという“やりがい”があるのが、イチゴというフルーツの特性なのです。それゆえ、利益の上がった農家がさらに品質向上を進め、それがさらなる利益を生むという好循環を生み出しています。

独自の進化を遂げてきた国産イチゴ

現在のような赤くて大粒のイチゴは、もともと江戸時代の終わり頃にオランダから長崎に持ち込まれたものだといわれています。当時は赤色が血液を連想させるとされ、積極的に食べられることはなかったようです。

明治時代に入ると、米国や英国からさまざまな品種が入ってきました。国産第1号のイチゴは、新宿御苑で生まれました。

近年になり国産イチゴのブランド名が登録され、2000年に入ると「さちのか」「さがほのか」「紅ほっぺ」「あまおう」などの品種登録が続きました。現在では、「イチゴを買う」というより「あまおうを買う」といった指名買いをすることが珍しくなくなりました。

私の経営しているフルーツショップでも、「あまおうよりこちらのほうが好み」と言って、熊本県産の紅ほっぺやひのしずくを購入されるお客様がいます。自分の好みのブランドイチゴを買うという消費行動は、それだけ味に繊細な日本人に合わせてイチゴが進化してきたことの現れでしょう。

このように、日本人の味覚に合わせて進化した国産イチゴですが、それゆえに近隣諸国のフルーツ生産者にとっては垂涎の的にもなっているようです。昨年6月には、日本のイチゴ品種が韓国に流出したことが大きな問題となりました。

日本が海外に輸出していたら稼ぐことができたであろう損失は5年間で最大220億円にも上る、という農林水産省の試算もあります。苗が流出したイチゴを安さに負けて逆輸入、ということにならないよう、水際での流出対策の徹底と絶え間ない品種改良が求められそうです。

この記事の感想を教えてください。