はじめに

米国株の過去リターンとこれからの期待リターン

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ただ、ここで慎重に考えたいのは、過去にうまくいった投資方法と、これから最も期待リターンが高い投資方法は必ずしも同じではないということです。
2026年現在、世界経済は大きな転換点にあります。成長テーマが広がる一方で、地政学リスク、エネルギー価格、インフレ、財政赤字、金利、米中対立、サプライチェーンの再編、世界の分断といったリスクも重なっています。

グローバル化が進んだ時代には、効率の良い場所で作り、安い場所から調達し、高く売れる市場で販売することが企業利益を押し上げました。しかし、これからは安全保障、規制、関税、資源確保、技術覇権、データ管理などが企業活動の制約になっていきます。

企業の成長力は、「売上が伸びるか」だけでなく、「どの国の規制圏にいるか」「どのサプライチェーンに属しているか」「エネルギーを確保できるか」「高い資本コストに耐えられるか」といった要素にも左右される時代になります。

この環境では、単に世界株を持っていればよい、米国株を持っていればよい、成長株を持っていればよい、という単純な投資が難しくなる可能性があります。
もちろん、全世界株式やS&P500は、今後も資産形成の中核になり得ます。ただし、「それだけで十分」と考えるのではなく、「何を、どの比率で、どの時間軸で、どのリスクに備えて持つか」がより重要になってきます。

10年で資産を倍にするには、年7.2%程度の複利リターンが必要です。この数字は、過去の米国株の長期平均を下回る水準ではあります。

大手運用会社の中には、今後の米国株の期待リターンを過去より慎重に見ているところもあります。たとえばVanguardは、米国株の高い評価水準などを背景に、2026年6月末時点で今後10年間の米国株の年率リターンを4.2~6.2%と予想しています。一方で、米国のバリュー株について相対的な魅力を指摘しています。

仮に米国株のリターンが年5%程度にとどまるのであれば、72の法則では資産が2倍になるまで約14.4年かかります。年4%なら18年です。そう考えると、米国株インデックスだけで10年倍増を当然の前提にするのは、やや強気かもしれません。これは米国株を売るべきという話ではありません。米国株は今後も重要なコア資産であり続ける可能性が高いと思います。ただ、それだけですべてを解決しようとしないという発想が大切です。

「一つの商品から年7%を取る」のではなく、株式の値上がり益や配当、債券の利息、金など複数のリターン源泉を組み合わせる。さらに、追加投資や税制メリット、収入増加も活用しながら、資産全体を成長させていくという考え方です。

商品数ではなくリスク源泉で考える分散

資産形成の基本は「長期・積立・分散」ですが、これからは「どのくらい分散しているか」だけでなく、「何に対して分散しているか」を考える必要があります。

投資信託を5本持っていても、すべて米国大型テック株の影響を強く受ける商品であれば、実質的にはそれほど分散されていません。全世界株式も非常に優れた商品ですが、時価総額加重型である以上、米国株や米国の大型テクノロジー企業の影響を相応に受けます。

これからの分散は商品数ではなく、リスク源泉で考えることが重要です。株式リスク、金利リスク、為替リスク、インフレリスク、地政学リスク、商品価格リスクがすべて同じ方向に動かないように組み合わせることが、本当の意味での分散だと思います。

AIの成長性と投資対象としての株価評価

2026年の市場では、AIを避けて通ることはできません。私はAIそのものを一時的な流行とは考えていません。AI投資は半導体だけで終わらず、データセンター、電力、送配電、冷却設備、光通信、銅、建設、サイバーセキュリティまで波及しています。

AIは単独のテーマというより、産業構造を組み替えるテーマです。ただし、産業が成長することと、その産業の株を買えば儲かることは別です。株価には、すでに将来の成長期待が織り込まれているからです。

AI投資では、「AIが伸びるか」だけでは不十分です。「誰がキャッシュフローを取るのか」「競争優位は何年続くのか」「現在の株価には何年分の成長が織り込まれているのか」を考える必要があります。良い会社と、良い投資対象は同じではありません。

非常に優れた会社でも、株価が高すぎれば期待リターンは下がります。反対に、短期的に割高に見えても、10年後に利益が大きく伸びていれば、現在の株価が正当化されることもあります。

長期保有で見直したい投資前提

長期投資というと、「何があっても売らないこと」と理解されがちですが、私は少し違うと思っています。長期で持つべきなのは、株そのものではなく、投資方針です。企業の競争力が崩れた、財務が悪化した、投資前提が変わったのであれば、10年保有する理由はありません。

一方で、市場全体が大きく下落しているだけで、企業価値には大きな変化がないのであれば、むしろ投資機会になることがあります。長期投資で強いのは、「下がっても売らない人」だけではありません。下がったときにも、価値を冷静に判断できる人です。

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