はじめに

昨年末の新聞に「3メガ銀が『口座維持手数料』検討へ」という見出しが躍りました。

こうした動きになった背景を探っていくと、社会の大きな変革の流れの中で現在の銀行が置かれている状況が変わってきていることや、今後の金融サービスがこれまでとまったく違ったものになる可能性があることなどが垣間見られます。

また、私たちへの影響を考えると、必ずしも「手数料の増額」というネガティブな捉え方だけではなく、むしろ歓迎すべき動きとして捉えるべきということがわかります。私たちの生活になくてはならない銀行や金融サービスは、これからどう変わっていくのでしょうか。


口座の維持・管理にもコストは発生

「口座維持手数料」とは、銀行などの金融機関に開設した口座を維持・管理するために、金融機関が預金者から徴収する手数料のことです。

これまで日本では、銀行などの預金口座を開設し、それを保有しているだけで手数料を取られることは、ほとんどありませんでした。このため、給与の振り込みのほか、公共料金の口座振替や住宅ローンの支払いなど、さまざまな用途に合わせて複数の金融機関の預金口座を使い分けている人が大半です。

皆さんの中には昔、最寄り駅の近くにあった金融機関に預金口座を開設したけれど、その後の引っ越しなどで違う金融機関に口座を開設したため、すっかり使わなくなった預金口座をそのままにしている方も多いのではないでしょうか。

金融機関側では、このような口座を維持・管理するために、人件費や通帳の管理費、ATMの設置費用などのコストがかかっています。加えて、ほとんど使われていない口座も含めて、通帳1冊ごとに毎年200円の印紙税を税務署に納めています。

日本で口座手数料が無料だった理由

本来であれば、こうしたコストは、口座を維持・管理するというサービスの対価として、預金者から徴収すべきものかもしれません。実際に海外では、たとえば5,000ドルなどの一定の残高を下回るような預金口座に対して、月額20ドルといった手数料を徴収し、口座維持・管理にかかるコストを回収している金融機関が一般的です。

一方、日本では、金融機関の預金口座は“公的なインフラ”としての位置づけもあって、無料で維持・管理サービスを提供する、という考え方が一般的だったようです。しかし、ここ数年の日本銀行による大規模な金融緩和・ゼロ金利政策により、このような「無償のサービス」が金融機関の収益に重くのしかかってきています。

貸出金利がある程度確保できていた環境では、低い金利で預金を集めて貸出に回すことで、貸出金利と預金金利との差を収益として確保することができました。このため、日本の金融機関では過去、できるだけ多くの預金を獲得することに腐心してきました。

他の金融機関が預金口座に手数料を課さない中で、自分の銀行だけが手数料を徴収しようとすると、預金を獲得するうえで不利になります。それゆえ、ほとんどすべての金融機関が口座手数料を徴収しないという状況が長く続いてきたのです。

地銀などにも拡大する可能性

ところが、貸出金利がゼロに近づくと、預金を増やしても貸出金利との差額がほとんどなくなり、収益が大きく減少します。それでも、人件費や通帳の管理費、印紙税などは引き続き1口座当たり一定額が必要になるため、特に少額の預金口座が増えれば増えるほど金融機関の収益にはマイナスの影響が大きい、という状況になってきました。

このために、相対的に維持・管理にかかる手数料が重い「残高の少ない預金口座」に対して、年間数百円から数千円の口座維持手数料を課したい、というのが今回のメガバンクの検討の背景にある考え方のようです。

しかも、一部の金融機関が単独で動いているわけではなく、3メガ銀行がそろって、口座維持手数料を導入する方向で検討していると報道されています。ライバル銀行も一緒に口座維持手数料を導入するということになれば、預金の流出や顧客離れといったネガティブな影響もあまり気にする必要はありません。

実際に3メガ銀行が口座維持手数料を導入した場合には、次は地銀などの地域金融機関にも、口座維持手数料を導入する動きが急速に拡大する可能性が高いと考えられます。

日銀の中曽宏副総裁も、昨年11月末の講演で、銀行の低収益に拍車をかけているのは「適正な対価を求めずに預金口座を維持し続けているからだ」と述べています。口座維持手数料の導入は、当局側からも一定の理解が得られそうです。

他業界では珍しいものではない

このような口座維持手数料を導入する動きは、他の業界に置き換えると決して珍しいものではありません。

AmazonなどのEコマース企業では、プレミアム会員から一定の利用料を徴収する代わりに配送手数料を無料にする、といったサービスを提供しています。また、携帯電話のパケット代などでも、ヘビーユーザーに対しては割安な料金プランを提供しています。

このように、コストに見合った手数料や利用率に応じた優遇は、他業態ではむしろ一般的ともいえます。

もし、利用者から一定の手数料を取ることで、全体のコストをカバーしつつ、利用率の高いユーザーに対してより満足度の高いサービスを提供する、といった動きにつながるのであれば、銀行による口座維持手数料の導入は、むしろ歓迎すべきことなのかもしれません。

銀行が厳しく見定められる時代

ここ1~2年、日本でもフィンテックの拡大などによって、革新的な金融サービスが広がりつつあります。こうした新しいサービスの多くは、便利で安く、手軽に金融サービスを提供することを目指すものです。

もし銀行などが金融機関側の論理で口座維持手数料を徴収する一方、金融サービスの使いやすさを磨かなければ、フィンテックのような金融機関以外が提供する新しいサービスに取って代わられることになるでしょう。そうした意味で、口座維持手数料の導入は銀行にとって“諸刃の剣”なのです。

私たちは、銀行のサービスが口座維持手数料に見合ったものかどうかを厳しく見極めていくことで金融機関の競争を促し、金融サービスを一段と手頃で使いやすいものにしていくことができるとも考えられます。

3メガ銀行の口座維持手数料導入の観測記事は、そういう「金融サービスの大競争時代」を象徴するようなニュースと捉えることができるのです。