はじめに

NVIDIAの残存価値サポートとAIインフラ融資

ただし、メーカーが顧客の資金調達や設備の資産価値に深く関与するほど、投資家は需要の実態や売上の質を慎重に確認する必要があります。

その点で注目されるのが、NVIDIAが個別案件の最大25%相当を対象に「残存価値サポート」を提供する可能性を示していることです。
残存価値とは、融資やリース期間が終了した時点で、GPUなどの設備にどれだけの経済価値が残っているかという考え方です。

AIデータセンター向け融資では、将来のコンピュート利用料から得られるキャッシュフローだけでなく、GPUや設備を売却した場合の回収可能額も重要になります。

NVIDIAが一定の残存価値を支える仕組みを提供すれば、金融機関にとっては融資しやすくなり、AI事業者の資金調達コストを引き下げる効果が期待できます。

一方で、これはNVIDIAが無条件で損失を補填することを意味するものではありません。対象資産や契約期間、評価方法、発動条件などを確認する必要があります。

AI需要が想定を下回り、GPUの中古価格やレンタル価格が大きく低下すれば、実際の価値がNVIDIAが想定していた残存価値を下回る可能性もあります。契約上の支援義務が存在するのであれば、それは将来的にNVIDIA自身の金融リスクにもなります。

循環ファイナンスで問われる資金とリスクの所在

ここから、「循環ファイナンス」という論点も浮上します。

たとえばNVIDIAがAI企業やデータセンター事業者へ出資し、その企業が調達した資金でNVIDIA製GPUを購入すれば、NVIDIAから出た資金が顧客を経由し、最終的にNVIDIAの売上へ戻るように見える構図が生まれます。

こうした資金循環だけを見ると、「NVIDIAが顧客をファイナンスし、自社製品を購入させているのではないか」という懸念が出るのは自然です。

しかし、資本関係や融資関係があることだけで、直ちに問題のある循環取引と判断することはできません。

確認すべきなのは、顧客に実需があるか、取引条件が独立したものか、売上が実際の現金回収を伴っているか、契約に買い戻し義務や保証が付いていないか、顧客に返済能力があるかという点です。

NVIDIAは、第三者の長期機関投資家が案件ごとに需要、稼働率、キャッシュフロー、残存価値などを審査すると説明しています。

第三者が自己資金でリスクを負い、独立して投資判断を行うのであれば、単純な循環ファイナンスとは異なります。

したがって、5000億ドル構想そのものを「循環ファイナンス」と決めつけるのは適切ではありません。

より重要なのは、誰が資金を出し、誰がリスクを負い、どのキャッシュフローから元本と利息を回収するのかを確認することです。

GPU残存価値・稼働率と信用市場への波及

私はこの点で、GPUの残存価値を特に注視しています。GPUと不動産では、担保資産としての性質が大きく異なります。不動産も価格変動リスクはありますが、数年で技術的に陳腐化する資産ではありません。

一方、GPUは次世代製品の登場によって、相対的な性能や電力効率が急速に低下する可能性があります。

たとえば100億ドル相当のGPUを担保に70億ドルを融資していたとしても、次世代製品の登場やAI需要の減速によって中古価値が30億ドルまで下落すれば、当初想定した担保余力は失われます。

そうなれば金融機関は追加担保を求めたり、融資条件を厳しくしたり、新規融資を抑制したりするでしょう。

しかもGPUの残存価値は、中古市場価格だけでは決まりません。世代や性能、電力効率、ネットワーク構成、設置環境、保守契約、電力契約、実際の需要なども影響します。

もう一つ重要なのが、AIデータセンターの稼働率です。

現在はAI計算資源への需要が強いため、高い稼働率を維持しやすい状況にあります。

しかし、世界中でデータセンター建設が進み、AIコンピュートの供給が需要を上回れば、GPUのレンタル価格や稼働率は低下する可能性があります。

稼働率が低下すれば、コンピュート価格が下がり、データセンターのキャッシュフローが悪化します。設備の担保価値も下がれば、金融機関は融資基準を厳しくします。

稼働率の低下、コンピュート価格の下落、キャッシュフロー悪化、担保価値低下、融資条件の厳格化、設備投資の減速という逆回転が生じる可能性があるわけです。

この経路が現実になれば、AI相場の調整は株式市場だけでは完結せず、社債やプライベートクレジットなど信用市場にも波及する可能性があります。

こうした構造から2008年のリーマン・ショックを連想する向きもあります。

住宅金融では、住宅を担保に融資が実行され、そのローンがMBSなどに証券化され、世界の投資家へ販売されました。

AIインフラでも今後、GPUやデータセンター、長期利用契約などを裏付けとした融資債権が束ねられ、機関投資家向け金融商品として広がる可能性はあります。

ただし、現時点でNVIDIAが「GPU担保証券」を発行すると発表しているわけではありません。

また、現在のAIインフラ金融が2008年当時の住宅金融市場と同程度に、世界の銀行システムに大規模なレバレッジを伴う形で組み込まれているわけでもありません。
「第二のリーマン・ショックが始まった」と考えるのは早計です。

現段階では、AIという成長産業に金融レバレッジが入り始め、今後、信用市場との結びつきが強まる可能性がある、と捉えるのが妥当でしょう。

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