キャリア

カリスマ社長の交代でも「日本電産」が心配無用の理由

コアコンピタンスと経営者の関係式

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日本を代表するカリスマ経営者が2月15日、社長の座を後進に譲ると発表しました。日本電産の永守重信・会長兼社長が吉本浩之副社長を後継者に指名したのです。

同社は1973年創業と、日本を代表する製造業の中では比較的新しい企業です。永守会長は精密機器用モーターのメーカー経営から始まり、1984年以降、M&Aで同じ分野のメーカーを次々と買収し、再生させていくという手法で巨大企業集団を作り上げました。

そのカリスマ社長が交代することで、今後の経営に不安はないのでしょうか。日本電産と他の企業の社長交代の違いを分析してみます。


永守氏が牽引した日本電産の高成長

誰もが知っている日本のカリスマ経営者は何人かいます。ソフトバンクグループの孫正義氏、ユニクロの柳井正氏、京セラの稲盛和夫氏、楽天の三木谷浩史氏といった名前は経済ニュースによく登場するので、皆さんもよくご存じだと思います。

彼らと比較するとやや地味かもしれませんが、経済通の間では知らない人はいないのが日本電産の永守氏です。精密モーターのベンチャーから始まって、同業のモーターメーカーを買収しながら大きくなり、現在ではグループ売上高約1.2兆円、従業員数11万人の巨大企業へと成長させました。

直近の株式時価総額は約4.8兆円で、日本企業の時価総額ランキングではトップ20にランクインしています。発祥の精密小型モーターではHDD用で世界首位のシェアを誇る一方、電気自動車用の車載モーターのように大型のモーターにも製品分野を広げ、大きな存在感を放っています。

日本電産のこれまでの成長は永守氏のカリスマ的な経営力にあるといわれてきました。その同氏も現在73歳。買収で膨れ上がったグループ企業は43カ国に及んでおり、それをすべて自分1人で飛び回る体力はもう限界だといいます。

そこで後継者として選ばれたのが、一回りも若い50歳の吉本浩之副社長でした。しかし、カリスマ社長の交代には常に不安がつきまとうものです。

失敗例が多いカリスマ社長交代劇

カリスマ社長の交代劇というと、日本では失敗事例のほうが多いように思います。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井氏は、2002年に後継者として玉塚元一氏を選び後任社長としましたが、結局その手腕に不満を抱いて、わずか3年で社長に復帰しました。

ソフトバンクは2015年に後継者としての位置づけで米グーグル元上級副社長のニケシュ・アローラ氏をヘッドハントしましたが、孫社長との交代の時期について認識が違っていたことから、わずか1年で辞任することになりました。

セブン‐イレブンを育てた鈴木敏文氏は、たくさんの社員を有力な経営者へと育てていきました。ところが高齢になってもその座を退こうとせず、最後は自分よりも有能な後輩のクビを切ろうとして、株主から退出を求められました。

このようにカリスマ経営者の交代劇は過去うまくいかなかった事例だらけなので、日本電産の場合も「うまくいかないのではないか」と不安がつきまとうようです。

しかし私は、日本電産の社長交代は意外とうまくいくのではないかと思います。その理由は、上に挙げた他のカリスマ経営者の企業と違った、日本電産が成長した独自の強みがあるからです。

日本電産の独自の強みは「再建力」

日本電産がここまで成長した秘密は、バリューアップ型のM&Aにあります。日本電産は同じ業界内で業績不振になったモーターメーカーを買収します。そして、赤字企業を黒字の優良会社に生まれ変わらせることで企業価値を高めるというのが、日本電産の成功の方程式でした。

赤字の会社を黒字にするには、いくつかの手法があります。銀行出身者が得意とするのはバランスシート(貸借対照表)をうまく作りかえていく方法。本業以外の資産を売却したり、目先の投資を抑えたりして借入金を返済し、バランスシートを軽くすることで企業を再建させていきます。

日本電産の場合は、技術力のある会社を買収して、その経営内容を立て直す力が会社としてのコアコンピタンス(競合他社がマネできない、企業固有の強み)になっているようです。既存の経営陣や管理職をそのまま活用しながら、彼らの力を最大限に引き出すことで業績を回復させていくような企業再建を得意としています。

M&Aに際しては、買収先の経営陣を総入れ替えして、親会社の人材が新しく子会社になった企業を支配していくようなやり方が一般的ですが、そうした手法では日本電産のようにグループを次々と大きくしていくことはできないのです。

経営手法が強みの会社は継承しやすい

このように、企業再建手法がコアコンピタンスになっている場合、実はカリスマ経営者の経営する企業であっても、後継者はやりやすいことが多いと思います。

これがソフトバンクや楽天のように、経営者の仕事がイノベーションをリードする戦略を考えることだった場合、事業継承は簡単ではありません。そうではなく、永守氏以下幹部たちが長年やってきた経営手法を引き継いでいくということであれば、昨日までやってきたことと、今日からやることはそれほど大きく変わりません。

新社長になる吉本副社長は、誰よりも永守氏の経営手法を深く理解し、実践してきた経営幹部だそうです。永守氏の手法においては、再建する経営幹部が直接深く経営に関わるハンズオンと、経営指標の1つ1つに細かく目を光らせるマイクロマネジメントが重要です。吉本副社長は海外子会社の経営においても国際電話で日々の売上状況をすり合わせるなど、他の社員が驚くくらい深く細かく経営に取り組んでいるそうです。

この日本電産の再建手法は、もともとの社員たちの努力を引き出し、どのような会社にも共通して通用するといわれます。頑張るのは社員で、頑張った結果、業績が改善すると、ご褒美として社名を「日本電産○○」というように日本電産の冠名をつけることができるようになります。社員たちはこのご褒美を目指して、日々頑張るのです。

永守会長はCEO(最高経営責任者)として経営を続けながら、今後徐々に吉本新社長に経営者としての役割を移管させていく方針だそうです。永守イズムを継承させる形の今回の社長交代劇。他社の前例と比べれば、うまくいく条件がそろっているのではないでしょうか。

(写真:ロイター/アフロ)

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