はじめに
自動車の軽量化トレンドを危惧する鉄鋼メーカー
先週の日本経済新聞に自動車がどんどん軽量化する方向に進化するという記事が掲載されました。アルミの車体や炭素繊維の車体など、鉄を使わない新しい乗用車がつぎつぎと開発されているといいます。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO04648460Y6A700C1TJC000/
このトレンドが本格化すると一番大きな影響を受けるのが鉄鋼最大手の新日鉄住金。なにしろ自動車会社は鋼板メーカーにとっては最重要顧客です。しかしなぜ自動車の車体に鉄が使われなくなっていくのでしょうか?
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO03715460X10C16A6TI1000/
このトレンドには実は3つの理由があります。それはエコカーのトレンド、電気自動車の登場、そして自動運転技術の進化です。この3つのトレンドはそれぞれ引き返しが起きないトレンドだと考えられますから、自動車の車体が鋼板からより軽量の素材へと進化していくことは避けられないかもしれません。
なぜ鉄が衰退するのか、一つひとつ状況を見ていきましょう。
軽い乗用車の方が燃費がいいという単純なニーズがある
まずはエコカーのトレンドです。原油など化石エネルギー資源に限りがあることと、それらの化石燃料を燃やせば温室効果ガスが発生することから、2000年代以降、なるべくガソリンを使わない燃費のいい自動車の開発が求められてきました。
燃費をよくする一つの着眼点は車体を軽くすること。軽自動車の方が、ベンツやレクサスのような高級車より燃費がいいのは、車体が軽いからです。
では車を小さくすればいいかというと、それでは高級車ユーザのニーズとはズレてしまいます。そこで、ゆったりした高級車でも車体を軽くするためにはアルミを使うというのが一つの解決策です。
ところがアルミは鉄と比べて価格がとても高い。ですからアルミを車体に使う自動車というのは本当に一部の高級車にしか搭載できない解決策。ですからここまでのトレンドであれば鋼板メーカーには大きな影響がなかったはずなのですが、そこに新たなトレンドが加わります。
電機自動車ならボディは金属でなくても大丈夫
鋼板を車体に使わなくてもいい新しい理由として出現したのが電気自動車です。そもそも車の周囲を鋼板で囲う必要があるのは、エンジンが高温で燃えているからです。そのエンジンが電気自動車の時代になると車からなくなってしまいます。
そうすれば過熱するといっても、熱を持つのはせいぜいモーターや、車軸の摩擦熱ぐらい。車の車体は金属でなくても大丈夫ということになります。
そこで中国で製造される、主に市街地や農村を低速で走るような電気自動車では、車体を軽くして燃費をよくする目的で、合成樹脂が用いられるようになりました。
そう考えれば、日本国内を走る電気自動車も樹脂製の車体でいいように思いますが、それはある問題からできません。
それが交通事故の問題。軽い車体で燃費がよくても、鋼鉄でできた大型のトラックに追突されてぺしゃんこでは安全性に問題ありです。そこでまだ鋼板は自動車のボディには不可欠ということなのですが、このトレンドに変化が起きそうです。
交通事故さえなくなれば、未来の車体は紙でもOKになる!?
それが自動運転車の出現。世の中がすべて自動運転車にとってかわられるようになれば、交通事故が激減すると言われています。
自分も事故を起こさないし、相手も事故を起こさないということが前提になれば、極論を言えば車の車体は紙でも大丈夫。
実際は実用性を考えれば炭素樹脂が本命だと言われていますが、その時代がくれば自動車は今よりもはるかに軽くて、それでいて骨格部分はしっかりとした繊維製という構造に変わるでしょう。
このようにエコカー、電気自動車、自動操縦車の3つのトレンドは、最終的にひとつの解決策を生み出すことになります。それが鋼板を使った自動車のボディが時代遅れとなって、炭素樹脂に置き換わる未来なのです。