はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する高山一恵氏がお答えします。

35歳、妻と共働きで子供が1人います。義父の交通事故死により、保険金を合わせて6000万円以上いただくことになりました。貯金と合わせると8000万円程度余剰資金が発生し、運用や保持の仕方を考えあぐねています。
子供は2人の予定で2人分の大学進学費用は確保済みです。家は今後も賃貸予定で自分が退職後に購入を考えています。車も購入の予定はありません。また、義母は70代ですが、介護などでの金銭負担の必要はありません。
現在、妻は育休中ですが、5年程度在宅ワークなどに変更する予定です。投資経験は5年程度(投資信託400万円、NISA、iDeCo)です。使い道はまだ決めていないのですが、交通遺児などの団体にいくらか寄付を検討しています。考え方も含めて、資金の効果的な持ち方や運用をご教示いただければ幸いです。

〈相談者プロフィール〉
・35歳、既婚、男性、子供1人
・収入:自分・会社員・手取り収入月35万円〜50万円、妻・会社員・手取り収入月30万円 
・居住形態:賃貸
・居住地域:兵庫
・支出:40万円前後


高山: ご質問ありがとうございます。義理のお父様がお亡くなりになり、まとまった金額の保険金を受け取られたのですね。まとまった金額を受け取ったときは、資金の使い道を整理することが大切です。まずは、そこから見ていきましょう。

今後の人生で必要な資金を把握する

親族のご不幸により6000万円もの保険金を手にしたとのことですが、そもそもご相談者さんも2000万円も貯蓄され、ご自身でもしっかり貯蓄されてきていますね。お子さんの教育資金のプランや家についてのプランなどもしっかり考えており、大金を手にしても無駄遣いなどせずにしっかりと管理していけるタイプの方ですね。

おそらく人生を俯瞰したライフプランを考えていらっしゃるとは思いますが、一度、「当面の生活資金」「5年以内に使い道が決まっているお金」「将来のためのお金」に分けて、それぞれにいくら必要なのか具体的に考えてみましょう。そして、それぞれ別の口座や金融商品、方法で貯めるという仕組みをつくるとよいでしょう。

現在、奥様が育休中で今後5年間は在宅ワークをされるとのことなので、今まで通りの貯蓄ペースが維持できないでしょう。ですから当面の収入減少分を見越して、現在の生活費の1年分程度は預貯金などで確保。「5年以内に使い道が決まっているお金」があれば、安全性が高いネット定期や国債などが預け先の候補になるでしょう。

上記の金額を除いたお金が「余裕資金」ということになります。余裕資金は将来のための資金にあてることもできます。余裕資金は、相談者さんもお考えのように、寄付をして社会還元するのもよいと思いますし、運用してお金を増やしていくのもよいでしょう。

減らさずに安定運用で着実に増やす

余裕資金の運用ですが、相談者さんは今後も共働きでの収入もあり、iDeCo等の積立投資を継続することを前提とすると大きなリスクをとって増やす必要はなく、安定して着実に増やしていけるポートフォリオを組むとよいでしょう。

リスクを低くしつつ安定した運用というと、国内外の株、債券、不動産など、地域も分散し、値動きも異なる資産に「分散投資」をすることが有効といわれていますが、最近は、経済のグローバル化が進んでおり、本来値動きが異なるといわれている「国内株式」「外国株式」「外国債券」などの資産が同じような値動きを示しています。

ですから、昔よりも分散効果が小さくなっている傾向にあります。これらの資産と唯一違う値動きを示しているのが「国内債券」です。ですから、一つひとつの資産配分というよりは、国内株式、外国株式、外国債券などの「値動きする資産」と国内債券、預貯金などの値動きをしない「安全資産」の配分比率がポイントになります。

当然、安全な資産を減らせば大きなリターンは期待できない代わりに、リスクを低くすることができますし、変動する資産の割合を減らすことができればリスクが大きくなりますが、大きなリターンも期待できます。

相談者さんの場合、特に積極的に大きなリターンをとって増やす必要もないので、むしろ減らさないように、少しリスクをとる程度でよいでしょう。例えば、安全資産9割、変動資産1割程度の配分でもよいでしょう。

仮に余裕資金の金額が5000万円だとします。5000万円を1%で10年間運用することができれば、10年後には、約5523万円、20年後には約6100万円、30年後には約6739万円となります。

取り崩しながら使うという方法も

現在、相談者さんのご年齢は35歳ですので、年金を受け取るまでに30年以上あります。ですから、老後は増やしたお金を取り崩しながら生活費の足しにするということもできますね。

総務省の家計調査報告(2016年)によると、現在の高齢無職世帯(夫婦)の1ヶ月の収入の平均は約21万2,000円、それに対して支出の平均は26万8,000円と、5万6,000円の赤字になっています。ただし、この生活費は、衣食住の基本生活費。夫婦でゆとりある老後を送るには、さらに10万円以上必要とのデータがあります。

今後少子高齢化の影響で年金の受取額が下がるとして、仮に毎月20万円を65歳から取り崩すとします。5000万円を1%で運用すると30年後には約6739万円。65歳から月額20万円を取り崩したとしても約27年間、つまり、92歳まで資金は持ちます。

さらに、65歳から1%の利回りで運用しながら取り崩していけば約33年間、つまり、98歳まで資金は持ちます。

この部分は、相談者さんが何歳まで働き、どれくらいの収入があるのか、どのような老後を目指すのかによっても違ってくると思いますが、将来の生活資金の足しにすることも視野に資金計画を立てるのもよいでしょう。

まとまった金額を手にしたときには、まずライフプラン全体を俯瞰して、必要な資金を把握し、目的にあった方法でお金を運用・管理することが大切です。

この記事の感想を教えてください。