はじめに
デルタ航空が成田国際空港(成田空港)から減便を発表
今年の2月、「Money Plus」に書かせていただいた予想記事が現実の結果になりました。
https://moneyforward.com/media/work/11371/
デルタ航空は2016年8月10日に成田―ニューヨーク間を含む成田空港発着の3路線から撤退することを発表しました。すでにデルタ航空では、円安が進んだここ数年の間にかなりの便を日本から撤退させていたのですが、今回の決定でその動きは加速しそうです。
デルタ航空は撤退の理由について「日米航空交渉合意で競合する米国航空会社とその日本の提携企業が圧倒的に優位になる」ためだとコメントしています。
これは今年2月に日本政府が羽田空港の国際線路線枠を増やすことを決めたことを指します。全日空とその提携先であるユナイテッド航空、日本航空とアメリカン航空、この4社が成田空港よりも都心に近い羽田空港から北米に向けて計10枠を増便するのです。
交渉時には「そんなことになればデルタは成田から撤退するぞ」と釘を刺していたデルタ航空ですが、それを実行に移すことにしたというのが今回のニュースです。しかしデルタ航空は成田から撤退して、収益が悪化しないのでしょうか? デルタ航空の収益状況を見てみましょう。
高収益企業のデルタ航空だが、経営陣はさらに好業績を求められている
デルタ航空の2015年度の純利益は45億ドル(約4600億円)、売上高は407億ドル(約4兆1500億円)で売上高純利益率は11.0%です。これを全日空と比較してみると2016年3月期の全日空の売上高は1兆7900億円で、純利益は781億円。純利益率は4.4%ですから、デルタ航空のほうが格段に収益率が高いことがわかります。
※日本航空は全日空よりも収益率は高いのですが、再生機構による債権放棄の効果や日本政府からの各種優遇があるため今回は分析からは外します。
これだけ収益性が高いのであれば「成田空港もそのままでもいいじゃないか?」と思うかもしれませんが、アメリカ人はビジネスにはシビアです。
デルタ航空の旅客数は全体では2014年から2015年にかけてほぼ横ばいなのに、太平洋路線だけマイナス13%も減少しているのです。経営上の改善点は明白に「太平洋路線の高収益化」なのです。
太平洋路線の顧客減少の原因は?
デルタ航空は1990年代に太平洋路線を充実させたノースウェスト航空と合併して現在の規模を築きました。東京と大阪をハブにしたアジア路線はかつての収益の柱。ところが収益性はよくても成長性に課題が見えてきたのがリーマンショック以降の話です。
簡単に言えばデルタ航空の太平洋路線には2つの問題が起きました。
1.中国人旅客が増えているが、直行便でないと競争力が高くならない
2.日本人旅客が円安で儲からなくなってきた
【1】だけの問題を考えてみても、東京をハブにするよりも北京や上海をハブ空港にしたほうがデルタ航空にとってはいいのです。
それに加えて1ドル=80円だった為替レートが1ドル=120円に。これはアメリカ人から見れば日本人旅客の売上が3分の2に減ることを意味します。さらに円安になれば日本人にとってはアメリカ旅行の魅力が減りますから旅客数も減ります。円安のせいで一転して日本路線はドル箱からお荷物に転落したのです。
シビアなアメリカ人経営者ならデルタ航空と同じ経営判断を下すはず
この為替レートは現在は1ドル=100円近辺に戻っていますが、それでもかつてのような高収益路線ではないことは確かです。こういったことが起きるとアメリカ人経営者の経営判断はシビアなもので、いくら日本人にとって一定数のニューヨーク路線の利用者がいたからといっても、「それだったら他社にお乗りください」といって撤退をしてしまうのです。
アメリカ人経営者にとって重要なのは「昨年度よりもどれだけ利益が増えるのか?」です。
同じ機体を成田に配置するよりも上海に配置した方が利益が増えると考えればそう行動します。一方で羽田から増便があるといっても、全日空や日本航空はともかく米国勢のユナイテッドやアメリカンは成田の便を減らしたうえで羽田を増便するはず。
結局はアメリカの航空会社は目先の利益を求めて行動する。その結果、日本はアジアとアメリカを結ぶエアラインのハブの地位を失うことになりそうです。
そして、さらには東京が便利ではなくなることで、他のアメリカ企業もアジア全体の本社機能をもっと便利な上海などアジアの他都市に移転する動きが加速する。これを今回は近い将来に起きる「私のあらたな予想」としておきます。未来がどっちに転ぶか、注目を続けましょう。
(Top Photo by Kentaro IEMOTO)