2018年のドル円相場は波乱の幕開けとなりました。

1月9日、日本銀行が通常の資金供給オペで国債買入額を削減したことで、市場には「日銀、早期緩和解除」の論調が強まるとともに、円高ドル安ムードが一気に広がりました。その後、1月24日には、スティーヴン・ムニューシン米財務長官から「ドル安容認」と解釈されたダボスでの発言が世界を駆け回り、円高ドル安をさらに加速させることとなりました。

黒田東彦・日銀総裁は「日銀、早期緩和解除」を否定。ムニューシン財務長官も1月30日の米上院銀行委員会公聴会で、ドルに関するダボスでの発言はメディアが誇張したものであり、間違ってもドルを押し下げる意図はなかったと証言しています。

しかし、市場は聞く耳を持たず、各種コメンテーターたちの「表向きだけの否定」「黒田総裁は心の中では早期緩和解除をしたくて仕方がないはずだ」「ムニューシン長官はドル安にしたくて仕方がないはずだ」との発言を信じているかのような動きをしています。

市場という生き物は、いわば「思い立ったら猪突猛進」となり、なかなか歯止めがきかないようです。


1~3月期は日本企業の決算対策の季節

日本企業の本決算時期は3月末が多く、特に金融機関や運用機関のほとんどが3月決算です。3月期決算企業は年が明けると、おそらく決算数字の落ち着きどころを探りに行くことが当該企業にとっての最重要課題になっているのではないか、と筆者は考えています。

「どこで(何で)益出ししようか」「どこで(何で)損出ししようか」「何と何を使って損を(益を)を合わせ切りにしようか」と、日本企業の頭を悩ませる時期が1~3月期ではないでしょうか。

大抵の場合は、益出しも損出し(損切り)も合わせ切りも、「売る」という行動が主体になると思われます。すなわち、3月末本決算の日本企業の「売り」という決算対策オペレーションが強まる1~3月期は、円高相場あるいは株安相場になる材料(ニュース、発言、イベントなど)に過剰に反応しやすいと考えられます。

加えて、国内外の投機筋はそのことを敢えて利用して、円高相場あるいは株安相場に拍車を掛け、投機に走る傾向があると、筆者はみています。日本市場が開いている時間帯(ニューヨーク市場が閉まっている時間帯)に、突然、米S&P先物や米NYダウ先物で売り仕掛けが入ったりするのを見るときなど、特にそう感じます。

関税問題が決算対策オペを加速させた?

相場が荒れた(円高傾向が強まった)2018年1~3月期も終盤に差しかかった3月1日、ドナルド・トランプ米大統領はホワイトハウスに招いた金属業界幹部らを前に「鉄鋼やアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっている。鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を課す」と発表しました。

これを受けて、市場では「米保護貿易=米ドル安政策」との思い込みが広がり、「世界貿易戦争」という言葉まで出てきて、ドル円相場は1ドル=105円台前半まで下落しました。

我慢強く売り場を模索していた決算対策オペレーションはもともと3月初旬で一巡するとみていましたが、さすがにこのタイミングで一気にやらざるを得ず、円高を加速させたと筆者は考えています。

その後、米国はいくつかの国に対する鉄鋼・アルミニウム関税の適用除外や今後の適用除外の可能性を発表し、パニック的な動きは収まっています。

米2月雇用統計も相場の安定に寄与

3月9日に発表された米2月雇用統計の注目点は、平均時給上昇率の一点に絞られていたといっても過言ではないでしょう。

2月2日に発表された1月雇用統計で、平均時給上昇率が前年比+2.9%(市場予想は同+2.6%)となったことをきっかけに、「米インフレ加速→米利上げペース加速→米景気減速→リスクオフ」というシナリオが2月の円高株安相場を助長させたという背景があります。したがって、2月の平均時給上昇率に対する注目度が高まったことは当然といえるでしょう。

リスクオフを助長させたい投機筋・コメンテーターの期待と安定相場への回帰を願う実需筋・投資家の期待が錯綜する中、2月の平均時給上昇率は前年比+2.6%(市場予想は同+2.8%、筆者予想は同+2.5%前後)という結果となりました(1月分は同+2.8%に下方修正)。投機筋・コメンテーターの思惑が崩れた形となったようです。

なお、筆者予想の同+2.5%は、昨年9月の速報値(同+2.9%)が発表されたときのハリケーンの影響を参考に、年末年始に米国を襲った大寒波の影響が薄れることで、平均時給上昇率が沈静化する、との見方から予想したものです。

週が明けた本日3月12日の東京市場は、いわゆる「森友問題」を受けた一時的な動きはあったものの、総じて平穏な動きとなっています。現状、日本企業による決算対策オペレーションもほぼ終了したとみられ、2月に波乱を呼んだ米雇用統計は3月においては平穏無事に過ぎ、米鉄鋼・アルミニウム関税に対する市場の過剰反応も落ち着きを取り戻しつつあります。

これを受けて、為替相場は「投機が沈静化したら、ファンダメンタルズ重視」相場に回帰していくと考えられます。結論としては、1ドル=110~115円にレンジを切り上げていくと想定しています。

(文:大和証券 チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄)